「まんがサイエンス2 ロケットの作り方おしえます」
子供だけに読ませておくのはあまりにもったいない.傑作が多い「まんがサイエンス」でもまさに「神がかってる」としか言いようがありません.
- 作者: あさりよしとお
- 出版社/メーカー: 学研
- 発売日: 1992/05
- メディア: コミック
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以下,ネタバレ含みます.
「まんがサイエンス」は,学研の「5 年の科学」「6 年の科学」になんと 20 年にわたって連載されている科学まんがです.数ある科学まんがの中でも,教育性,科学的正確さ,漫画としての面白さをすべて兼ね備えた大変クオリティの高い作品であり,大人のファンも多いようです.
今回紹介する 2 巻は学研の「5 年の科学」に 1991 年に連載された内容で,ロケットと人工衛星に関する 1 年間のシリーズ連載(的川先生の監修つき).シリーズ物は他の巻にもありますが,本書のすごいところはそのずば抜けて神がかった展開です.
主人公のよしおクンとあやめちゃんは,ひょんなことから「ロケットの神様」の助けを借りて,有人周回ロケットを作ることになります.人工衛星とは何か,なぜロケットが必要なのか,といったところからはじまり,燃料はどうするのか,どうやって姿勢制御するか,なぜ多段式が優れているのか,といったかなり専門的なところまで,ひとつひとつ解決していきます.作者の力量を感じるのは,これらの説明が天下り式でなく,仮想実験や図解を駆使してボトムアップで丁寧に積み上げていっていること.ツィオルコフスキーの公式だって,なぜそうなるのか,それがロケット製作にどう影響するのかを徹底しています.数式一切なしでも,宇宙工学の初歩の少なくとも定性的な部分は学ぶことができるのです.
さらに特筆すべきは,このロケット作りの過程がそのまま人類の宇宙開発の歴史を忠実になぞっていること.ツィオルコフスキーやゴダード,オーベルト,フォン・ブラウンといった過去の偉人達が現れて主人公達に手を貸してくれるという筋なので,ノズルを上につけるか下につけるか,多段式にするかたばね式にするか,といった彼らの試行錯誤の過程がそのまま再現されるのです.ボストーク型の宇宙船であやめちゃんがまず宇宙へ,少し遅れてマーキュリー型の宇宙船でよしおクンが宇宙へ到達するくだりは圧巻.宇宙服までちゃんと再現されています.話はこれで終わりではなく,さらに 2 人はフォン・ブラウンとともにサターン 5 型で月へ…アポロ計画の追体験です.ついに月に来ることができたフォン・ブラウンの嬉しそうなことといったら!
そういうわけで,宇宙工学教育,宇宙開発史教育という見地からするとまさに神がかっているということなのですが,それだけにとどまらずシリーズ物ならではのストーリーの面白さ,それからギャグのキレ,いずれも白眉といえるでしょう.著者の宇宙開発に対する並々ならぬ情熱と造詣が最大限に発揮されています.素人は楽しみながら読んでいくうちにロケットの知識がしっかり身につく,マニアは散りばめられたネタや神展開を堪能する,そんな本です.
当時リアルタイムで連載を読んでいた人は,現在 27 歳ということになりますね.もしかすると宇宙開発に携わっている人もいるかも知れません.
ちなみに,他の巻にも突発的に宇宙ネタが出てきますし,宇宙以外のネタももちろんクオリティは保証できます.次に出るまんがサイエンスは全編宇宙モノという情報もあります.これは期待できそうですね.激しくwktkです.