JICE REPORT に川口先生の講演「『はやぶさ』の挑んだ世界初の試みと、将来の太陽系航行のビジョン」全文掲載

(財)国土技術開発センターの機関誌 JICE REPORT 第 11 号に,川口先生の講演「『はやぶさ』の挑んだ世界初の試みと、将来の太陽系航行のビジョン」の全文が掲載されています.

非常に読み応えのある記事です.

アメリカとの関係について.

残念ながら、これはアメリカを責めることはできませんで、アメリカのNASAは予算が日本の10倍から20倍あるので、我々が思いついて同じことをやろうと思ったら、予算的にはNASAが1年でやることを20年かけてやらなければならないという状況にあるのです。彼らには盗もうというつもりはないのかもしれません。単に、そこにアイデアが転がっているから、「我々はできますよ」とやっちゃったということなのだと思います。

その時は非常に悔しくて、NASAも実行するのをためらうような計画でないとすべてアイデアは取られてしまうという危惧から始めた計画、それが、この「はやぶさ」計画なのであります。

だけど、我々は先を越されて大変悔しいと思う反面、大いに手ごたえを感じました。NASAをこういうふうにしなければいけない状況に至らせしめたということで、我々は手ごたえを感じたわけでございます。

タッチダウン時の報道について.着陸結果が二転三転したのはこういうわけだったんですね.

非常離陸をかけると、探査機はすべての機器をオフにして、自分が最も安全な姿勢でゆっくりとしたスピンに入ります。ですから、そこからデータを取り出そうと思うと大変な日数が必要になり、2日か3日かかってしまうのです。
しかし、その日の午後には報道関係の方に何か発表しなければならないという状況に追い込まれておりました。宇宙開発は常にマスコミの方からご批判をいただいておりまして、「宇宙開発、何のため」とよく言われるものですから、とりあえず割れ目の発表をしておくというのが我々の習性になっておりまして、我々も探査機からの情報を待っている状態だったのですけれども、とりあえず、「着陸はできなかったのではないか」ということを発表しました。残念なことに、翌日の記事には「着陸できず」とか、「異常発生」とか、「着陸失敗」とか載ってしまいました。

恐らくそういうことで、間違いなく着陸をしていたわけですが、翌日の新聞には、「実は着陸」といった記事が出てしまいました。我々は隠しているつもりは全くなくて、情報を心待ちにしていたのですが、記事としてはそのように載ってしまいました。

我々がこの発射されていなかったのではないかという事実を知ったときは、まさか発射が安全側に戻っているとは思っていなかったものですから、とても当惑いたしました。本当に凍りついてしまったわけですが、苦渋の会見をしてご報告させていただきました。
新聞記者さんは、そういう中でも大変親切でやさしい人ばかりで、「大変ですね。ぜひ頑張ってください」と声をかけていただくのですが、翌日の新聞はというと必ずしも甘くはないのです。「弾丸発射できず」というふうな記事が載るのです。編集部記者というのは、なかなか厳しいところがございます。

技術開発について.教育について.

技術開発をするためには、とにかく高い塔を建てなければなりません。高い塔を建ててみると、自分たちの技術の水平線が見えてくると思っています。

はやぶさ」はすごい挑戦をしていると言われますけれども、まだ遅れているものがいっぱいあります。我々は通信に長野県の臼田町に直径60mのアンテナを構えて運用していますが、そのアンテナとNASAが使っている直径34mのアンテナが、同じぐらいの性能なのです。直径で言えば半分ですけれども、面積で言えば4分の1ですから、いかに我々の通信技術は遅れているかということです。これからどんどんキャッチアップしていかなければならないと思っています。

中学生や高校生がこれに触発されて、いわゆる理工系の分野、科学技術の分野に進んでくれるならば、その効果というのは数年のうちにやってくるわけです。教育ということは何物にも代えられないもので、直接技術開発するよりも意義があるものだと私は思っています。

ところで,

それから、3週間ほど前に、NASAが「ファーストリターン・オーバースティル・ザ・サービスマテリアル」と言っていることが記事になりました。

これ,"first return of asteroid surface material" のことだろうなあ(笑).川口先生英語うまいから….
(川口先生の英語を聞いてみたい方はこちら