「夏のロケット」

そろそろ夏ですので,今回は「夏のロケット」です.高校でモデルロケット作りに勤しんだ 5 人の仲間が再び集結してロケットを打ち上げてしまう話.

夏のロケット (文春文庫)

夏のロケット (文春文庫)

以下,ネタバレ含みます.


ロケットを飛ばす小説というものはたいてい青臭いものですが,本書も例外ではありません.しかもいい年こいた大人が仕事をほっぽりだして,高校生のような口調と高校生のような精神年齢でロケットを作っていくさまは,青春小説以外の何物でもありません.

「どこにでもいる普通の人間がロケットを飛ばす話」と思ったら大間違いw.5 人が 5 人ともまったく普通ではない.宇宙開発事業団の天才技術者(設計担当).大手メーカーで宇宙用特殊材料を発明したスゴ腕職人(開発担当).一流商社で宇宙事業を扱うやり手の商社マン(開発場所提供,リソース,マネージメント),ミリオンセラー続出の超売れっ子ミュージシャン(資金提供.これ大事!),そして宇宙分野に滅法強い大手新聞の科学部記者(広報,資料提供).ありえないくらいのオールスターぶりです.一人くらいうだつのあがらないエンジニアとかが普通はいるものですが,物語開始時点で既に最強パーティーです.一番ありえないのがミュージシャン氷川で,全財産を投げ打って数億円をポンと出してくれるのです.ああうらやましいww

ロケットについては管理人はあまり詳しくないのでわかりませんが,かなり綿密に取材して書いているという印象を受けました.宇宙モノによくある「それはねーだろ」というようなツッコミもほとんど感じませんでした.むしろ逆に勉強になったというか….一箇所「すべての宇宙開発,ロケット開発は,かならずといっていいほど血なまぐさい過去をひきずっている」という部分を読んで,軍事的な由来を持たないロケットシリーズが日本にあるんだよということに触れて欲しかったかなあとも思いましたが,まあこれは勝手な要望ですね.夢や希望ばかりを語るのでなく,宇宙開発のもつ負の遺産や宇宙開発自体が内包する危うさというものに,正面切って取り組んでいる本書の姿勢は評価したいと思います.

個人的には,「その後」の社会の反応がほとんど描かれていないことがちょっと気になりました.世間は興味を持たなかったということなのかな.しかし,あの売れっ子ミュージシャン氷川が…とくれば,けっこう世間では話題になっているのではないでしょうか.まあ,あくまで男女 6 人夏物語に焦点をあてようと,意図的に描写しなかったのかも知れません.