「女子高生,リフトオフ!」

新刊の感想を書く前に既刊の感想を,ということで,能代宇宙イベントつながりも見据えつつ,ロケットガール第 1 巻です.

女子高生、リフトオフ!―ロケットガール〈1〉 (富士見ファンタジア文庫)

女子高生、リフトオフ!―ロケットガール〈1〉 (富士見ファンタジア文庫)

アニメのほうはほとんどチェックできてないので,書籍のほうだけ.

以下,ネタバレ含みます.


一般にはいわゆるライトノベルという範疇で括られるシリーズです.ラノベというだけで敬遠している方もおられるかも知れません.実際,管理人がそうでした.実際に読んでみて,イラストが挿入される装丁やラノベ特有の文章の軽さというものに,どうも慣れなかったことは否めません.逆に,ラノベとして期待される萌えシーンのようなものはほとんどなく,そういう意味では中途半端なラノベ度の作品といえます.しかしですね,ラノベだから,あるいはラノベっぽくないから,というような理由で本シリーズを敬遠してしまうのはあまりに勿体なさすぎる.同じ著者による「沈黙のフライバイ」などの著作を読んだ方なら,本シリーズの根底にも同じ哲学が流れていることに気づくでしょう.文体はライトでソフトでもストーリーはバリバリのハード SF 2.0,それも宇宙開発好きな人種であれば確実に萌え殺されるタイプのネタがこれでもかと出てくる.萌えポイントはラノベのそれではありません.われわれが「はやぶさ」や「ボイジャー」や「アポロ 13」や「スプートニク」の逸話から感じるのと同じ萌えを,ストレートに感じられるのが本書です.特に神運用が好きな人,例えば先日のはやぶさの姿勢制御の話で悶絶していたような人にお勧めです.もちろん,キャラクターに萌える人,ちょっと泣ける部分に萌える人,楽しみ方は百人百様と思いますが,管理人にとっては本シリーズは「神運用に萌えるための本」なのです(おいおい).

ハードなのは運用やミッションだけではありません.(現状の)宇宙開発における第一原理が「ペイロードを軽く!」であるならば,当然有人宇宙飛行のペイロードにもそれは適用される.女子高生が宇宙に行くことの理由がこれです.決して安易な萌え指向でやっているのではない――というわけです.スキンタイト宇宙服も,ちゃんと理由があるのです.奇想天外なエピソードもすべて隙のない論理とリアリティのある記述で構成されています.ビジネスモデルとしての宇宙開発がそこにあります.ある意味,きわめて戦略的に作られたラノベであると言えましょう(笑).しかも,10 年前に書かれたにも関わらず古さを感じませんね(ミールネタは郷愁を持って読みましたが).まあ裏返していうと現実の宇宙開発の進展が遅すぎるのかも知れませんが….登場する技術がまた,現在の技術がほんの少ーし背伸びすれば実現するというような絶妙なレベルに設定されているのも心憎い(先日紹介した「プラネテス」も確実に現在を外挿した世界を感じさせてくれるものでしたが,さすがにそこに至るまでの道は相当長い気がします).ああ,これ,もうちょっとでほんとにいけるな,こういう有人ミッションも十分アリなんだな,という気がしてきます.なにより,こんな世界が実現したら,楽しいじゃないですか!

個人的には,第 1 作である本書はまだ単にお膳立てを整えるための巻であるという印象を持っています.作品世界において女子高生を宇宙に飛ばすという設定を既成事実にするために話は進んでいきます.そこに至るまでの論理展開はさすがに隙がありませんが,それだけに話のテンションを維持するためのエピソード(特に森田父の話など)における若干の無理やご都合主義が目立ちます.しかしあらゆる宇宙開発がそうであるように,ペイロードを宇宙に飛ばすことはミッション実現の手段であって最終目的ではありません.真骨頂はそこからです(とか書くとロケット屋さんに怒られそうですが,管理人はミッション萌えな人間なのですいません).女子高生が宇宙に行くというフレームワークが一度できてしまえば,後はやりたい放題です.その片鱗は本書後半にも現れてはいますが,どちらかというと 2 作目以降のほうがストーリーにもキレがありますし,作者が本当に楽しんで書いている感がより溢れ出ているように管理人は思います.特に 3 作目は文字通りの傑作だと個人的には思っているのですが,本書以降の巻についてはまたいずれ書くことにします.