「宇宙工学入門」「宇宙工学入門 II」

宇宙工学に関する,非常にわかりやすい良書です.

宇宙工学入門―衛星とロケットの誘導・制御

宇宙工学入門―衛星とロケットの誘導・制御

宇宙工学入門〈2〉宇宙ステーションと惑星間飛行のための誘導・制御

宇宙工学入門〈2〉宇宙ステーションと惑星間飛行のための誘導・制御

以下,ネタバレ含みます(専門書にネタバレも何もありませんがw).


本書は,東芝で長年衛星製作に携わってきた茂原先生による宇宙工学の教科書です(2 巻は元 NAL の木田先生が分担執筆されています).1 巻目は主に衛星とロケットの姿勢制御,2 巻目はさらに惑星間航行や軌道決定なども扱っています.計測自動制御学会の 1995 年度著述賞を受賞しているだけあって,大変わかりやすく書かれています.管理人がこれまで読んだ類書はどれもある程度宇宙工学を学んだ人間用だったらしく,暗黙の了解や省略が多くて素人にはさっぱりついていけませんでした.しかし本書は,用語や座標系などの基礎事項はもちろん,理論的な部分もごくごく基本的な古典力学をベースに丁寧に式展開してくれており,はじめての人でも無理なく読み進めることができます.細かいところまで実によく考えられている本です.

また,衛星作りの現場におられただけあって,理論面だけでなく実践面に関する記述や実際の衛星における例なども豊富なのはありがたいですね.1 巻では ETS-III や ETS-VI,H-I ロケットの姿勢制御が例として出てきます.2 巻はあの ETS-VII(おりひめ・ひこぼし)のランデブ・ドッキングをはじめ,ETS-VI の柔構造制御実験,そしてタイムリーにも SELENE(かぐや)の月周回軌道投入に関する力学が大変丁寧に解説されています.SELENE の投入軌道を設計する例題が載っていますが,実際にかぐやのプレスリリースにあったような数値が計算で出てくると感動しますし,実にいろいろなことを考えて軌道を設計しているのだなあとあらためて感心します.