「魔法使いとランデヴー(ロケットガール 4)」

どう見てもはやぶさです,本当にありがとうございました.

魔法使いとランデヴー―ロケットガール〈4〉 (富士見ファンタジア文庫)

魔法使いとランデヴー―ロケットガール〈4〉 (富士見ファンタジア文庫)

以下,ネタバレ含みます.


ロケットガールシリーズもとうとう 4 作目,しかもはやぶさネタと来れば買わないわけにはいきませんw

2005 年の暮れにロケットガールシリーズ作者の野尻先生がこんなことを書かれています.

|野尻さん、「はやぶさ」を迎えに行く、「はやぶさ」に出会う、みたいなSFを書いてくださいませんか。

 もちろん考えてますけど、冥王星探査機を救うやつ(『天使は結果オーライ』)や、NEARのエロス探査を追体験するやつ(『轍の先にあるもの』)をすでに書いているので、ストレートには書きにくいです。なにより困るのは、誰であれ主人公がはやぶさと再会したら、『2010年』でHALと再会したチャンドラ博士と同じことをするにちがいなくて、それはどうしても二番煎じに見えてしまうことでしょう(^^)。

野尻ボード

「ストレートには書きにくい」のは素人目にも明らかです.さて,どう調理してくるか――と期待しつつ読み進めたところ,待っていたのは「テザーと極超音速カイトによる直接回収」という,二ひねりも三ひねりもしたアイディアでした.うーん,なるほど.

そもそも本作に登場する小惑星探査機は,固有名詞以外はほぼ完璧に現実の「はやぶさ」を踏襲しています.外見,ミッションの流れはもちろんのこと,RW の故障とか燃料漏れとかキセノンスラスタとか,果てはリポ D ネタに至るまで「はやぶさ」そのまんまなわけです.となると当然,作品の自由度は減ってくるわけで,その制約のなかで嘘にならない(技術的に実現可能性がある)アイディアを生み出し,ストーリー性を失わないまま形にする作者の技量にはうなるばかりです.というか,ミッションが高度過ぎて,管理人はもはや脳内再生不可能でした orz

とはいえ現実には,はやぶさのバッテリは運用チームの努力で感動的な復活をとげ,今のところはカプセル放出の可能性が確かに残されています.世の中の面白い小説がことごとく霞んでしまうような数々の伝説を生み出しているはやぶさは,ある意味,小説家泣かせの探査機かも知れません.

それにしても本作で登場するような衛星・探査機の回収システムが本当に実現したら,宇宙エレベータに負けるとも劣らないブレークスルーになりますね.先日ご紹介した YES2 実験などもそこに向けた第一歩となるかも知れません.もちろん,技術的,科学的な意義は大変大きいものですが,「ねえお父さん,飛行機で迎えに行けないの?」と言った女の子のエピソードだとか,はやぶさ関連スレで何度となく出る「スペースシャトルかなんかで回収できないのか?(世間的には SFU のイメージが強いのかも知れません)」というような質問に代表されるように,多くの人がやはり「戻ってきたからには地上に降ろしてやりたい」と感じているようにも思えます.その意味でも,本作はこういった人々の思いに対するひとつの鮮やかな解答と言えるかも知れません.