「日本宇宙開発物語―国産衛星にかけた先駆者たちの夢」

宇宙研おおすみを打ち上げ,ついで新設された宇宙開発事業団に非常勤理事として迎えられ,さらには宇宙開発委員会委員を 17 年間務め上げられた齋藤成文先生による,日本の宇宙開発の一大回顧録

日本宇宙開発物語―国産衛星にかけた先駆者たちの夢

日本宇宙開発物語―国産衛星にかけた先駆者たちの夢

以下,ネタバレ含みます.


おおすみ打上げ実験の生々しい記述から始まる本書は,執筆時点までのすべての科学衛星・実用衛星に何らかの形で関わってきた著者ならではの,克明な記録であり説得力のある提言の書です.タイトルだけ見ると,日本の宇宙開発のことをあまり知らない人が概要をつかむのに良さそうに思えますが,正直そういう用途にはあまりお勧めしません.しかし,日本の宇宙開発のあゆみをある程度把握している人にとってはむしろ必読の書といえます.

本書の際立った点のひとつは,日本の宇宙開発における大小さまざまな失敗をまとめた稀有なデータベースとしての役割を持っていることです.L4S-1 号機失敗の原因となったセパレーションナットの解説にはじまり,ISASNASDA 双方の数々のロケット・衛星の失敗とその原因について,大変事細かに記載されています.ISAS の L 型ロケットも NASDA の N 型ロケットも,初期は非常に似通った失敗を数多く経験していること,またメーカを介して,あるいは直接に,互いの失敗に関するノウハウが共有されることで技術が成熟していったことがよくわかります.特に第 5 章はその名も「宇宙開発不具合の歴史」というタイトルで,笑えるような失敗から重大な事故までさまざまな事例を回想と共に紹介しており,失敗が許されず過去に学ぶことが不可欠な宇宙開発に従事する方々には一度ぜひ目を通してほしい内容です.

また,ISASNASDA,宇宙開発委員会すべてを経験されてきた立場だからこそ書ける,産官学それぞれの立場の苦悩と互いの協力体制,特に黎明期における対立と協調は,現在の日本の宇宙開発体制を考えるうえで頭に入れておくべき記述に満ちています.ISASNASDA は確かに当初から折り合いが悪かったこと,その芽はもともとは東大と政府との対立関係にまで遡ること,それでもなお双方のメンバーは個人レベルでは共に協力し合い,ISAS の知見や失敗が NASDA に多く受け継がれたこと,宇宙開発委員会が苦労して現在の開発体制を築き上げたこと,また実用衛星に関しては政府,NASDA,メーカ,ユーザ(NTT や NHK)との間で大変な苦労があり関係諸氏が尽力されたことなど,大量のエピソードを伴って丁寧に記されています.齋藤先生が神経をすり減らすような辛苦の果てに見出された今後の宇宙開発に対する提言は,3 機関統合が果たされた今,さらに重い意味を持って我々に何かを問いかけています.

宇宙開発に携わる方はもちろん,宇宙開発を応援する国民にも広く読まれるべき本だと思います.絶版になっているのは大変残念なことですが,一部の図書館や古書店などにはありそうです.