はやぶさ2,ASI が正式検討を開始,はやぶさ Mk2 の全貌も明らかに
またまた明るいニュースです.前回,ASI(イタリア宇宙機関)がはやぶさの同型機はやぶさ2に打ち上げロケットを提供する可能性が報じられましたが,先日の国際始原天体探査ワーキンググループ (IPEWG) の場において,ASI が正式検討をおこなっていることが明らかになりました.
実はこの件は,IPEWG のアブストラクトに堂々と書いてあります(ファイル名から察するに,1/10 には公表されていた可能性がありますね.今日まで見落としていました).IPEWG に参加してなくても,実はけっこういろんなことがネット経由でわかってしまうんですね.
And last but not least, ASI joined JAXA last December to carry on a mission study to assess the possibility to use the VEGA launch vehicle for the Hayabusa-2 mission.
(適当訳:最後に大事な話ですが,ASI は昨年 12 月,はやぶさ2ミッションに VEGA ロケットを使う可能性を検討することで JAXA と合意しました)
ちなみに,このアブストラクトには,はやぶさ2,はやぶさMk2(Marco Polo)をはじめ,各国の始原天体探査計画についてかなりいろいろなことが書いてあり,非常に興味深いです.まだ全部目を通したわけではないですが,いくつか拾い読みした限りでは,
- はやぶさ,はやぶさ2,はやぶさMk2という一連の始原天体探査プログラムを「JAXA が」確立したと述べている.各ミッションの GO/NOGO は未だ定かではないが,少なくとも一連のプログラム探査を行う意志があることを JAXA の名で表明している.
- はやぶさ2
- はやぶさ Mk2(Marco Polo)
- ターゲットメイン候補は Wilson-Harrington 彗星(既報通り),リエントリ速度は 14km/s 程度,はやぶさの数倍の太陽電池面積,より強力なイオンエンジン
- かつてない高速のリエントリに対応できる熱防御技術を習得するため,高速再突入実験機 DASH-II を JSPEC でプリフェーズ A 段階として検討中.
- 層情報を保存したサンプル採取のため,複数のサンプリングシステムを検討中(テザーやマストを使うものなど).
- ESA 側では,Cosmic Vision 候補に残っている 8 つのミッション案について数ヶ月の初期アセスメントののち,2008〜2009 年に industrial study を経て,予算的に大規模なミッションと中規模なミッションが選定される.それぞれ 2010 年にフェーズ A となり,2017〜2018 に打上げ.
- ソユーズタイプの打上げ手段を想定.
- SIFNOS と名づけられたランダ(ESA 担当?)が天体に軟着陸してアンカーをおろす.SIFNOS は表面や表面下のサンプルを採取して「その場解析」を行う
- 表面科学パッケージの搭載も検討されている.
- ホッパー(MINERVA タイプ,JAXA 担当)も搭載.
- 母船は(はやぶさと同様)「タッチアンドゴー」方式でサンプルを採取する.JAXA と ESA がそれぞれ開発した 2 種類のサンプリングシステムが格納式のアームに搭載されており,サンプル採取・母船上昇後,アームがサンプルコンテナを母船に押し込む.
以上はあくまでも現時点での「提案」であり,決定事項ではないことにご注意下さい.しかし,はやぶさ Mk2 はすごいことになっていますね.DASH-II まで計画されているとは!
はやぶさ Mk2 については,文章だけだとよくわからないと思いますが,ESA が昨年発表したらしいこちらの資料をごらんになるとイメージがつかめると思います.
ピンクの部分が JAXA 担当,グリーンの部分が ESA 担当ということで,ESA はミッション機器の一部とサンプラの片方,ランダ,打上げ手段などを担当し,残りは JAXA,運用は共同という形を想定しているようです.Philae(彗星探査機 Rosetta のランダ)の写真があることから,SIFNOS は Philae の技術を生かしたものになるのかも知れませんね(ちなみに SIFNOS はエーゲ海の島の名です).母船から伸びたアームの先端には JAXA と ESA のサンプラーが仲良く並んでいます.また母船にはミネルバが 2 台積まれています.さらにオプション2として,ランダがサンプルの入った容器を投げて母船がキャッチする「キャッチボール」オペレーションという,これまたとんでもなくアクロバティックな手法も併せて提案されていて,これが本当に実現したら管理人は度肝を抜きますが…ww
他には,特にはやぶさ後継ミッションと関連付けられているわけではないですが,
- はやぶさに載せるはずだった NASA のローバ(MUSES-CN)を,JPL が再提案している.
- 宇宙研による,アクティブフェイズドアレイアンテナの提案.
- フランス(CNES)では LEONARD という NEO 探査ミッションが検討されている.打上げは 2015 年を想定しており,ランダによるその場探査.
- イギリス(Astrium 社)では小惑星 Apophis の探査ミッション APEX が検討されている.
- NASA の深宇宙探査網 DSN の将来プランが提案されている(内容は不明).
意外だったのが,OSIRIS をメインで扱っている発表が見当たらないことです.同じ Discovery ミッションでも Dawn や STARDUST NExT,EPOXI などはあるのですが….粘り強さでは敬意に値する彼らのことです,まさか諦めてしまったとも思えないし,何か策を練っているのでしょうか.
各国の姿勢もざっとまとめてみます.
- イタリア(ASI):これまで Cassini-Huygens,Rosetta,Dawn などに貢献.当面の主要な目標は火星(Aurora)と月だが,はやぶさ2や Marco Polo にも意欲.
- イギリス:不明.
- フランス(CNES):Rosetta に貢献.現在ロシアと Phobos Grunt(フォボスサンプルリターン,2009 年末打上げ予定)を推進中.Marco Polo などに意欲(サブシステムへの貢献)
- ドイツ(DLR):不明.
- ESA 全体:Giotto にはじまり Rosetta 等,小天体探査には伝統がある.現在は Don Quijote のほか,Marco Polo に意欲.
- アメリカ(NASA):最近だけでも New Horizons,Dawn,EPOXI,Stardust NExT 等,様々なサンプルリターンミッションについても検討中.スペースガード的観点.
ともかく,非常に面白いことになってきたような気がします.