宇宙研の外部評価結果

JAXA 宇宙科学研究本部ISAS)の外部評価結果が公開されました.

報告書の全文はこちらで読めます.

報告書の日本語版は恐らく英語の原文を翻訳したものなのでしょうが,はやぶさがことごとく「ハヤブサ」とカタカナ書きだったり,JSPEC(JAXA Space Exploration Center)を「宇宙の探査センター」「宇宙探検センター」(笑)と訳していたり,そもそも日本語が不自然だったりと,やや翻訳の質に難があります.それでも目を通す価値のある内容です.

評価委員は,JPL の所長 Charles Elachi,ロシア科学アカデミー宇宙開発研究所所長 Lev Zelenyi,「軌道の帝王」の異名を持つあの Robert Farquhar をはじめ,すごい面子になっています.

前書き:

評価委員会は、何年にもわたってISAS が輝かしい記録を作り出すことを支えてきたものが、この数年、少しずつ崩れ始めているのではないかとの懸念を持った。

Martin Harwit 委員:

稀にではあるが、Lunar-A のように打ち上げに向けて長期に問題をもつミッションは放棄される。ミッションをキャンセルすることは、常に難しい。キャンセルしたことは、むしろISAS の強さを示している。

評価委員会で口頭のプレゼンテーションを行ったほとんどのISAS スタッフは、統合によっておこった変化によって疲れているように見えた。

新しいセンターを開始するための資源が、ISAS から取られるとすると、ISAS は十分にその使命を果たせなくなる可能性を生じる。宇宙探査のセンターとISAS のどちらもが、その使命を果たすためには、JAXA は、両者が一定のクリティカルマス以上の資源を持つようにすることが重要である。

岡村定矩委員:

やむを得ないことではあると思われますが、今のところ、従来のISAS の良いところを「守る」という姿勢が強く出ていて、統合によって組織と予算が増えたことをうまく利用するという戦略が見えていないような気が(外から見ると)しています。

Lev Zelenyi 委員:

我々のIKI は、ISAS から広報について学ぼうとしている。

日本の外から日本の性質を見た時に、ISASは、日本の名声に大きく貢献している。その意味で、ISAS という名前を残したことは大変賢い選択であった。

大家 寛委員:

技術的な継続性を考えると、Lunar-A を選定した後に火星を選択した事は、あまり合理的ではない。むしろたとえば、金星の方が容易であったはずであるが選択されなかった。

Charles Elachi 委員:

教育・広報活動
ISAS は非常に上手に行っていると思う。これは、ほとんど売名的で、それほど効果的でもない広報宣伝をやりすぎているNASA と対照的である。ISAS は、より控えめであるが、よく考えて行っている。

日本だと「NASA レベルの広報をやれ」って話をよく聞くわけですが,NASA/JPL の所長からするとあれは「やりすぎ」なんですね….

1 つの潜在的問題点は、予算があまり変わっているように見えないことである。実際、それは
最近いくらか減少したようであり、これは、良い傾向ではない。

Robert Farquhar 委員:

火星探査の失敗は、始原天体、イトカワへのハヤブサによる探査で十分に補われている。

ふくはらさんもこの一文をピックアップしておられましたが,同感です.かつてはスイングバイを駆使して ICE をハレー彗星観測艦隊に急遽合流させ,ひてんや GEOTAIL の軌道運用を陰で支え,そして NEAR の小惑星エロス着陸ではやぶさを追い抜き世界初の小惑星着陸の栄誉をものにしたファーカーその人から,このような言葉が出たというのがまた,感慨深いところです.

SPICAは検討初期段階にあるので、私としては、太陽–地球の第2ラグランジュ点のハロー軌道にこの衛星を置く事、熱設計と観測への拘束条件を最小化し、かつ、通信距離を小さく保つ上で最良であるのかについて再検討することを奨励したい。一方、次期太陽ミッションであるSolar-Cについては、太陽– 地球の第1ラグランジュ点のハロー軌道に置く可能性を検討するよう勧める。Solar-C を太陽風の観測に活用することもできるであろう。

さすが軌道の帝王…!!

ソーラーセイルに関するISAS の技術研究は深宇宙探査のための重要かつ新しい技術に結びつく可能性がある。私は、より多くのリソースをこの分野に振り向け、開発の速度を上げることを勧める。

『低コストで柔軟な標準的なバス』はあまり支持しない。これはすでに何度も試みられ、成功しなかった試みであるからである。

アメリカのいくつかのグループは、NASAディスカバリー計画の下でケンタウルス座α星へとKBO へのミッションを提案している。私はISAS がこれらの提案に参加する可能性を検討するよう強く勧める。可能な参加として、科学機器や2 台目の宇宙機が考えられる。

いくらなんでも「ケンタウルス座α星」は誤訳ですね.英文版を見る限り,Centaurs とだけ書いており(α星云々はどこにも書いてない),これはケンタウルス族(カイパーベルトから内側にはじき出された小天体)のことと思われます.

堀 洋一委員:

NASDAISAS は、NEDO の補助事業と文科省科研費のような関係ともいえる。

高柳 雄一委員:

恐らく日本の科学技術に関係した宇宙活動を行なっている現場で、ISAS の一般教育広報、アウトリーチは一番目立っており、それなりの成果が上がっていると思います。