朝日新聞ではやぶさ大気圏再突入の件

本日の朝日新聞が,はやぶさがカプセル投下後に地球大気圏に再突入する公算が高いことを報じています.

はやぶさスレ的には半ば定説となっていた話ではありますが,公式にこういう話が出てきたのは初のような気がします.いったいどういう経緯で今回の記事化になったのでしょうかね??

これまでの計画ではカプセル投下後、はやぶさの機体は太陽を回る「人工惑星」となるはずだった。状態がよければ、さらに別の天体を探査することも想定されていた。

あ,やっぱりボーナスミッション考えてたんだ….

地球到着時には当初の計画と異なり、機体を大気圏に再突入させる可能性が高まっていることがわかった。地上へカプセルを正確に落とすには、ぎりぎりまで地球に近づく必要があるからだ。

はやぶさは燃料漏れなどの故障が相次ぎ、微妙な姿勢制御が難しい。運用チームには「カプセルの落下位置の誤差が大きいと街に落ちる恐れが出てくる」という心配の声もある。そこで、カプセルを目標地点へ正確に落とすには、当初計画より地球に接近させる必要が出てきた。

 その場合、カプセル投下後にエンジンを噴射しても、はやぶさは地球の重力を振り切れない可能性が高い。宇宙機構の解析では、大気圏で燃え尽きるとみられている。

なるほど.着地点分散を狭めるためには地球に近いところで分離しないとだめだと.で,その位置からはもう惑星間空間に出て行くことはかなり難しいと.そういうことですね.再突入させるにしてもそれはそれで大変難易度の高い作業なのでドキドキものです.RW-Z とイオンエンジンジンバルだけでカプセル分離と再突入をやるなんて正気の沙汰ではないですが,DSN キャンベラ局の割り当てを見ると,2007 年に予定されていた当初の帰還運用の倍以上の時間をかけた実に慎重な運用計画を立てている模様です(2010 年 1 月から DSN を用いた軌道決定を開始し,4 月以降は D-DOR(R&RR+VLBI)によりさらに精密な軌道を計測).

バッテリが死んでいた頃のはやぶさスレでは,「カプセル分離時は太陽指向しないからバッテリ運用するはず.バッテリが死んでしまったらカプセル分離ができないかも」という悲観的な意見もあったのですが,バッテリが復活したのでそこはまあ何とか大丈夫でしょう*2

なお,この記事によると,当初予定されていたカプセル分離シーケンスは以下のとおりです*3

カプセルの地上への帰還は惑星間軌道から母船とともに北西の方向からオーストラリアのウーメラ地域に向かう,高度200km での経路角−12 度の突入軌道で地球に接近する.地球大気突入の約8 時間前に母船から高度100km での迎え角をゼロにする姿勢で分離され同時に機軸周りに0.2Hz のスピンが与えられる.この後母船の軌道は再び地球を脱出する軌道に変更される.大気圏への突入時には動圧の増加に伴う減速Gの立ち上がりを検知してタイマが起動し150 秒後にパラシュート開傘と前面アブレータの分離が実行される.この時の高度は約10km で,開傘と同時に小惑星から採取したサンプルを収納したコンテナのみがパラシュートに懸垂さhttp://d.hatena.ne.jp/hayabusafan/edit?date=20070319
はやぶさまとめニュース - 日記を書くれた形態で降下しビーコンが発信される.地上への到達までの約1500 秒の間に地上の3 点からビーコンを受信し位置を同定し探索回収が始められる.着地地点はウーメラ地域の砂漠地帯で,着地速度は約10m/s である.

地球大気突入の約 8 時間前に分離だったのが,もう少し遅くなるということですね.分離の位置は月までの距離の半分くらいのところ月の軌道程度の位置が当初の予定でしたが,多分十数万キロくらいの地点になるのでしょう.

なおソース不明ではありますが,「オーストラリア当局には既にはやぶさ本体の大気圏再突入について了承を得ている」という情報をどなたかがhttp://hayabusamatome.xrea.jp/wiki/index.php?%A4%CF%A4%E4%A4%D6%A4%B5FAQ#rca89cefに書き込んで下さっています.(追記:昨年 10 月のロケットまつりでの國中先生の発言だそうです.)

はやぶさは、自らの機体と引き換えに、小惑星からの試料回収技術と、地球〜小惑星間の往復飛行の実証という目的の達成を目指すことになる。

この書き方はずるいっすよ… 。・゚・(ノД`)・゚・。


宇宙機構は今週にも、はやぶさのエンジンを連続して噴射し始める予定だ。推進力は小さく、現在の軌道から本格的に動き出すのは、4月上旬になりそうだという。

お,これは良いニュースですね.今週かあ〜.wktk.


それにしても,覚悟はしていましたが,やっぱり再突入は悲しいですね(もちろん「公算が高い」だけで,まだそうと決まったわけではありませんが!).地球周回軌道に乗せたり,スペースシャトル等で機体を回収できたりしないのか?というのはよく聞かれる質問ですが,こちらに回答があるとおり,技術的にも物理的にもほぼ不可能です.というより,まだこれから太陽を 2 周してくるわけですから,再突入云々以前に,地球近傍に戻ってくるだけでも奇跡ですね.でもはやぶさチームならやってくれると信じています.


2ch では珍しくν速にスレが立ちました(昨年の Science 祭以来です).

明らかに普段のはやぶさスレとは違う客層が大量に書き込んでいて,しかも「帰って来い」「がんばれ」という熱いメッセージばかりです.なんかこう,自分も初心に帰ったような気持ちでタッチダウンの頃などを思い出しました.引用されていた野尻ボードのこの記事を久々に見て少し胸が熱くなりました.

そうそう,うちの娘も「はやぶさ応援団」のひとりです.あのフラッシュアニメはたいそう気に入って,涙ぐみながら何度も見直してました.そしてサイエンスゼロの番組を見て,ここの場面がアニメのここよねえ,なんて言ってました.リアルなCGの方は,「うまくいったらこうなる」という感じでカッコよく作っているので,むしろネコさんのフラッシュの方がはるかに現実感があるのかもしれません.

はやぶさが子どもの心をこんなに捉えるのは,まるではやぶさが意識を持っているように見えるからかも.「なんか私,はやぶさが機械って感じがしないっちゃん」と娘は言っていました.そんな娘の最大のショックは,無事にはやぶさが地球に戻ってきても,地上に帰れるのはカプセルだけということです.それを知ったときはえらくショックだったようで,「ねえお父さん,飛行機で迎えに行けないの?」と真剣に言っていました.アニメではない現実のことだからこそ,日本中の小学生が声援してくれるようになったらいいなあ,それは本当に良い夢を子どもたちに与えることにもなるし,それが大人の務めだよなあ,などと思いました.


追記:わー.東亜ニュース板にまでスレが立っているw


追記(2007-03-21):さらに他の板でも.

あと,再突入条件は MEF のページ

にも詳しいです.ただし,

大気突入速度は秒速122km、

いくらなんでもこれは速すぎです(笑).実際は 12.2km/s です.NASA のサイトにも出ています.


追記(2007-03-25):分離の位置等については,こちらの記事のほうが新しいようなので修正しました.

*1:最近の新聞記事はすぐに消滅してしまうので,今回からキャッシュをとることにしました.これまでのはやぶさ関連記事も,現存しているものはこの機会にキャッシュをとりましたが,わずか数ヶ月前の記事であってもずいぶん消えてしまっていますね.非常に残念.

*2:追記(2007-03-25):先日の蓋閉め運用の記事を見ると,「復活したバッテリは有終の美を飾り」とあるので,もう使わないのかも知れませんが.

*3:さらにもっと前,はやぶさのターゲットがイトカワでなく 1989ML(多分)という別の小惑星だったときは,アメリカのユタ州で回収する予定でした