「宇宙船ボストーク」

今度も絶版本ですみませんが,今度はソ連側の話です.

宇宙船ボストーク―第1号から月計画へ (1962年) (岩波新書)

宇宙船ボストーク―第1号から月計画へ (1962年) (岩波新書)

原題は "Cosmonaut Yuri Gagarin -First Man in Space-" で,ガガーリンの宇宙飛行とそれに至る経緯をアメリカのジャーナリストが調査・取材して 1961 年に発行した本です.なにしろ飛行からたった数ヵ月後の出版だというのに,西側の人間がよくもここまで取材できたなと驚くほどの詳細ぶりです.ちなみに,コロリョフの名はもちろん出てきません(「設計長」のエピソードは数行出てきますが…).

例えば,ツィオルコフスキーと同時期に独立にロケットの概念を考え付いたのに日本ではあまり有名でないキバルキッヒ(キバルチッヒ)の話,ライカ犬をはじめとするたくさんのイヌたちの訓練の話,スプートニク以前の弾道飛行実験の話,ガガーリンが経験した 108 分,その後の月,火星,金星探査計画,宇宙船の「人工頭脳」(今でいう自律化),など,非常に幅広い話題です.特に個人的に目を引いたのは人類初の惑星探査機ベネラ 1 号(当時は Automatic Interplanetary Station と呼ばれていた)の設計.GNC,軌道投入,通信,追跡管制,熱設計等,現代の惑星探査機の礎となる技術が既に高いレベルで実装されているのには驚きます.本書後半は「火星の 2 つの衛星は火星文明が打ち上げた人工衛星だ」「地球には大昔宇宙人が来ていた」などの学説が大真面目に紹介されていたりもします.今ならトンデモで片付けてしまいそうな話ですが,科学的方法をもってしてもこのような帰結が出てきてしまうほどに,当時の人類の宇宙に関する知識が貧弱だったことを示唆しています(当時はそれなりに理にかなった説だったということです).逆にいうと,これほど宇宙が未知の領域であった時代に,そこに人間を送ろうと考え,実際に送ってしまった彼らのチャレンジングスピリットは我々の想像をはるかに超えているのかもしれません.

印象深いエピソードとして,著者がガガーリンにインタビューした際にブーメランを手渡し,「無事帰還の象徴としてこれをとってください.これはいつでも帰ってきます.私は貴方と貴方の同僚もいつもそうであるよう祈っています」と言ったところ,ガガーリンは喜んで「これは非常にいい象徴(シンボル)ですね」と言ったというのがあります.はやぶさを思い出さずにいられませんでした.

余談ですが,ガガーリンについては,「今日も星日和」さんが非常に詳しく調査されていますので,興味をお持ちの方はご一読を.彼は本当に「地球は青かった」と言ったのか?ロシア語の新聞等をあたって精力的に調査されているその熱意に頭が下がります.