「プラネテス」
先日のエントリでちらりと予告しましたが,今回は「プラネテス」を取り上げます.
- 作者: 幸村誠
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2001/01/20
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以下,ネタバレ含みます.
管理人は毎週モーニング誌を読んでいますのでこの作品もリアルタイムで読んでいましたが,はじめて読んだ時の衝撃はそりゃもう大変なものでした(確か第 1 話は残念ながら読み逃したような記憶がありますが).宇宙 SF ということを差し引いても,話の構成力や画力において,幸村誠氏に匹敵する新人をあれ以来モーニングで見たことはありません.連載中,絵のクオリティがやや荒れたり,(恐らく)作者の精神状態がもろに反映されたりしてやや危なっかしい時期もあるにはありましたが,あらためて単行本で通して読むと作者の揺るぎない力量に驚かざるを得ません.
語りだすときりがありませんので管理人が最も評価したいところを一つだけ挙げると,本作が「地続きの未来」「地続きの宇宙」を描いた稀有な SF であるということに尽きます.これまでの SF が描く未来の多くは,嘘っぽいユートピアであったり,あるいは現実味はあるけれども暗ーい未来だったりして,どうも現在とは隔絶されている(あるいは隔絶したい)という感が強かったように思います.それに対し,「宇宙と地球のあいだに境界などなく,ここも紛れもない宇宙であるとするならば,それは空間方向だけではなく時間方向にも通用することであって,ハチマキ達のいる世界は私たちの生きているこの時間の延長線上に確かに存在する」と信じたくなるような,そんな未来世界や宇宙世界を描くことに見事に成功しています.いや,未来とか宇宙とか,ほんとにそんな特別なものじゃないってことですね.あまり SF という感じがしないのはそのせいかも知れません.もっとも,本当に現在を外挿していったらここに行き着けるかは,我々にかかっているのかも知れませんが.
作品に登場するモチーフを,これは○○のオマージュかな?と邪推するのもこの手の作品の醍醐味です.ロックスミスがフォン・ブラウンをモデルにしているとかは有名ですが,例えば重要な小道具であるユーリのコンパス.個人的にはこれは映画「コンタクト」のオマージュではないかと思っています.小さなコンパスをお守り代わりにしたり,無重量状態のコンパスを掴むシーンは共通のものなので.また,第 14 話でハチマキが毛むくじゃらの宇宙人と異星の浜辺で星空を見上げる夢のシーンがありますが,これも「コンタクト」を連想させますね.最終話のラモン神父は星野之宣氏の 2001 夜物語にも登場します.他にネットで見かけた説としては,「行ってきます」は「王立宇宙軍」のオマージュだとか,最終話でロックスミスがカーラジオから木星到達のニュースを聞くのは,中東の砂漠を走っていてカーラジオで「おおすみ」打上げの報を聞いた糸川英夫氏へのオマージュだとか,それらしいものがいくらでも出てきます.
ちなみに,シリーズ中の評判も非常に高い第 1 話をここで無料で読むことができます.
こちらは懐かしの NASDA NEWS に掲載された幸村氏のインタビュー.そうそう,作中ではまだ NASDA なんですよね.