月探査ワーキンググループ議事録

ついに出ました! 宇宙開発委員会,月探査ワーキンググループの議事録です.

大変興味深い話が盛りだくさんです.以下,管理人の独断と偏見で面白かったところを抜粋.

予算・人材について

【青江部会長】(中略)全体の資金と月探査にかかる資金の間の問題は、こういう計画をつくるときに、必然的にいつも伴う問題であるが、非常にありていに申し上げると、やや、潤沢に展望して整理してあるということである。潤沢の度合いは、さほど大きく現実から乖離しておらず、今の厳しい財政状況をも相当踏まえた形で大体見込んでいる。こんなところである。

【中西委員】 (中略)私の質問の趣旨は、月探査はかなり重要であるのでワーキンググループでこうやろうということに仮になったものの、全体の予算やJAXA(ジャクサ)の人的リソースといったものの限界がある中で、ほかのものを削らなければいけないという選択になったときにどうするかということである。(中略)全体の宇宙開発基本計画の中で、この月探査の優先順位をどうするのか、月探査が仮に情勢変化によって非常に重要になったということであれば、その他のものについて宇宙開発基本計画に入っているものとの優先順位を変えるといったようなことも考えるのが本来の趣旨ではないかということを申し上げたかったので、発言させていただいた次第である。

【青江部会長】 繰り返しになるようであるが、全く御指摘のとおりである。月探査ワーキンググループでの議論の成果をはめたトータルの長期計画の姿というのは、私どもは大体実行していくつもりである。資金的な側面から見てさほど非現実的なものではない形に押さえ込むように、自制を働かせた形で整理をしつつあるということについては少し御信頼いただいてもいいとは思っている。

【向井委員】(中略)果たしてこれを実際実行できるスタッフというかメンバーというか、それが充足しているのかということ、外から見るだけであるが、この計画が実際5年計画で動いていったとしたら、とても対応できないのではないかという心配をするのであるが、(後略)

JAXA(ジャクサ)(川口)】最初の面については、JAXA(ジャクサ)の中に月・惑星探査推進グループというのを作って、プロジェクトの実施体制については今年度いっぱいをかけて整備をしていくという検討をしているところである。
 少なくともJSPECとしてはこのSELENE後継機のフェーズAスタディを始めた根拠としては、その体制は準備できるものと考えた上で提案しているわけである。

【向井委員】ただ、これは月探査だけ書いてあるが、資源(始原)天体探査も同時に進むわけである。「はやぶさ2」もあるし。だから、そういう意味の新しいプログラムが月探査を議論しているから月探査でクローズして予算の話をするというわけにいかない。JAXA(ジャクサ)全体としても、これはあくまでも月・惑星の探査の議論であって、宇宙科学全体から見ればやはり新しい提案を出していかないといけない、新しいことを始めないといけないという、予算の必要性というのは幾らでもあると思う。
 だから、新しいものを出す以上は、今ある予算の枠の中でおさまりそうだということで議論されると、皆さん困られるのではないかと私は思う。

【青山審議官】

 予算の点であるが、第1回目のときにも少し申し上げたかと思うが、基本的にはゼロベースで考えるべきものであって、その時々の国家の財政事情その他のことをすべて勘案されて予算というのは編成されているものである。
 そういう意味からいうと、少なくとも今この月探査を考える上で何が必要かというものを作っていただいて、それを徐々に具体的なプログラムあるいはプロジェクトいう形で予算の形が見えてくるような作業というのをそれなりに進めていくという中で結論が得られるものであって、最初からこのプログラムをしたらこっちが外れる、あるいは、このパイはこっちのパイに行くというようなものがあるわけではないので、そこはゼロベースでお考えをいただくということでお願いしたいと思う。

JAXA(ジャクサ)(樋口)】SELENEは550というオーダーであるが、SELENE−2やSELENE−Xは、同等か、あるいはもっと良い方法を考えて安くやりたいとは思っていて、この辺までは要するに一プロジェクトとして数百億のオーダーだと思っている。
 有人の月探査については御承知のとおりであるが、国際的にやっていく場合いろいろなやり方があると思っていて、例えばローバなど、我々がSELENE−2でもやる衛星や技術を発展させていく等、大体数百億の、1,000億を越えないようなオーダーで有人の一要素をうまくやって、国際的に分担していくというようなオプションがたくさん考えられると思っている。
 それで、そういう意味では、青江委員がおっしゃるように、荒唐無稽なシナリオと予算を考えているわけではない。今の予算枠を増えないままやれるかというと、それは無理であると答えざるを得ないので、かなり増やしていただきたいと思うが、全く荒唐無稽なことを、夢のようなオーダーの計画を今検討しているわけではないということは御理解いただきたいと思う。

バックアップ機について

【水谷委員】(中略)月探査は、昔アメリカがやったからといって易しいというものでは決してなく、大変難しい技術要素を持っていると思う。それに対して、「SELENE」「SELENE-2」「SELENE-X」が1機ずつのミッションで本当にいいのか、バックアップを考えなくていいのかということがある。アメリカの場合は、火星の「ローバ」「スピリット」「パジェニティ」とバックアップを用意しているように、昔から、大きいミッションはみんな2機ずつ実施していた。予算を膨らませることになるが、最終的に見ればトータルな予算は決して増えたとは言えない考え方だと思う。バックアップ機をつくるという概念は、やはり、これからの日本のこういう宇宙開発については大事な要素だと思う。予算との兼ね合いでJAXA(ジャクサ)側からは言いにくいかもしれないが、必要性を訴えて国民の皆さんに理解を求めることは必要で、ぜひ考えていただきたい。

JAXA(ジャクサ)(川口)】(中略) バックアップ機については、広い意味でのリスク回避、リスク緩和の方法というとらえ方をしている。もちろん水谷先生が御指摘のとおり、費用とリスクのバランスを考えなければいけないが、現在、できるだけリスク回避がうまくかかる方法を検討しているところである。

月探査の目的

【観山委員】(中略)例えば、月探査よりも「はやぶさ−2」を先にやったほうが日本の独自性も出せるという考え方もあり、どうして月なのかというのが弱い。科学者に対するアピールは随分あると私は思うが、日本の月探査の計画が本当に国民にアピールできるのかどうかという視点を、もうちょっとはっきり目指さないと、なかなか国民にわかっていただけないのではないかと思う。

JAXA(ジャクサ)(中村)】(中略)諸外国の探査は、主に月・惑星の表面の探査に集中している。それに対して日本は、むしろ内部を調べることを考えている。(中略)「SELENE-2」以降で、表面探査も大事であるが、それにつけ加えて内部探査をやっていくべきであるというのは、日本の固体の惑星科学者、月科学者の大体一致した意見であると思っている。

【山根委員】(中略)今、各国が月や惑星に対して非常に情熱を持ち始めているというのは、知的な競争時代に突入したということであり、「先進国」とは、知的な先進国という意味だと思う。知的な競争力を持ち得た国というのは、文化的にも、技術、科学、サイエンス、教育の面で先進的であり得る。世界が混迷している時代にとって、世界の1つの行く道を示すことになるのではないかと思う。
(中略)宇宙開発の資金は国民の税金であるから、国民が何を考えているかを考えなければならない。月を研究することによって地球の地震の仕組みがわかるといった科学的な貢献は大きい。しかし、科学的な貢献を超えて、国民に直にメッセージが出せるとすれば、あらゆる人が宇宙に行ける時代の礎であるということになるのではないか。

JAXA(ジャクサ)(川口)】(中略)これは個人的な意見だが、特に月惑星探査が、大きなポテンシャルを持っており、宇宙開発の牽引力としての目標なのではないかと思う。

【松尾委員長】(中略)「SELENE-2」の魅力は,着陸技術という言い方でくくってしまうと、日本が先進国の一員としての役割を果たすにはどのような技術が必要かいう話に行ってしまう。日本固有のピカッと光る内容があるかどうかということを説明するべきだと考える。

JAXA(ジャクサ)(樋口)】月を調べ尽くして、本当に人類に役立つ使い方を考えるという戦略をとっている国は日本だけである。

JAXA(ジャクサ)(川口)】一言だけよろしいか。「SELENE-2」で獲得すべきは、1つは、システムとして月に到達できる手段を獲得するということ。例えば、日本独自の活動を行わず、国際的な協力で進められる月面の拠点構想にだけ参加するとすると、月面拠点が作られる極地だけに限定した活動になってしまう。月には、科学的に探査すべき場所が複数ある。しかし、自律的な手段と目的をもって探査を行う手段がなかったら、月面の拠点活動だけに専念することになる。つまり、自分たちが思っている信念に基づいた探査を実施するためには、この「SELENE-2」の着陸技術が必要なのだと思う。

【森尾委員】(中略)「かぐや」の場合は、月の誕生の謎に迫るみたいな非常にわくわく感があるのであるが、それがサイエンスだと思う。ところが、 SELENE−2やXになった途端にそういうムードが何か消えて、着陸技術をやる、サンプルリターンをする等、何か手段の方にすごくウエートがあるような印象を受けるのである。

JAXA(ジャクサ)(川口)】(中略)SELENE−2、それから、SELENE−Xというのは周回機でできない直接探査というのを行って、新たな知見の獲得を目指すということであって、触れたことがない、我が国として触れたことがない直接探査を実施するということに大きな期待を持っている。そこはまぎれもない事実である。

NASAアメリカの動向について

【青江部会長】今、ブッシュ政権が、月に基地を作り、より以遠の探査を行う活動に対して大変熱心であるのは事実であるが、政権が変わったらどうなるのか、よく見ておかないといけないと思う。
 結論としては、基本的にはポストISSの時代におけるアメリカ、NASA(ナサ)の活動の中心は宇宙探査であるという構図は政権が変わっても変わらないと見ておくべきであると思っているが、きちんと頭の整理をしておく必要がある。

【鶴田座長】 皆さんが危惧していることを口に出しておっしゃってくださったという気がする。

【青江部会長】政権動向ではなくて、あの中心人物がどのように今後動くか、それによって我々の動きというのも当然かなり影響を受けることになるではないか。おおよそ関係ないと言えるのか。

はやぶさ後継機について,地球近傍天体の有人探査について

【松尾委員長】(中略)月から火星探査へという流れがあるようだが、火星探査については必ずしも共通の目的となっている訳ではなく、各国の得意技があっていいと思う。日本の得意技の候補である「はやぶさ」の後継は、今どういうステータスにあるのか。

JAXA(ジャクサ)(川口)】(中略)「はやぶさ」の後継機については、外国の打ち上げ機で打ち上げる可能性も考慮に入れた国際協力で実施することを検討中である。

JAXA(ジャクサ)(川口)】(中略)始原天体探査に関して、NASA(ナサ)では地球近傍天体の有人探査が真剣に検討されつつある。目的としては、科学的な意味も利用調査の意味もあるが、それだけではなく、月探査を行う技術はそのままでは火星に対して適用できないが、地球近傍天体の有人飛行は、月探査の技術によって実施可能であるということが背景にある。NASA(ナサ)は真剣に検討していて、ヨーロッパでも検討を始めている。我が国では、JAXA(ジャクサ)内部の議論はあるが、まだ着手はしていない。現在は、月だけではなく、火星も含めた地球近傍小天体を有人探査の対象として、各国で検討が進められつつある。

月探査と教育・人材育成について

【山根委員】(中略)前回も出た予算の話のほかに、人の問題があると思う。今のサイエンティストとエンジニアのマンパワーで足りるのかという問題である。日本の宇宙科学や宇宙技術の人材を育てるということが、あまり議論されていないのではないかと思う。それは、中教審だけの役割ではなく、宇宙開発委員会で独自のそういう提案をしていかなくてはならないと思う。そこで、中須賀先生などみなさまにお聞きしたい。実際に宇宙を目指したいという若い人たちは多いが、結局学ぶ場がない、就職する場がないということで夢がついえている人たちがたくさんいるのではないか。今議論している今後20年ぐらいの計画を国家として持てば、若いひとたちがどんどん宇宙を目指していくようになると思う。人口比で比べると、アメリカが3億人で日本が1億3,000万人と約半分であることと比すると、日本の宇宙予算は低過ぎる。人も少ない。水谷先生にも伺いたいところだが「Newton」の宇宙特集はすごく売れると聞いている。それだけ国民の関心は高いはずである。国として、人・組織を育てていくことに対しての計画もきちんとやっていくべきだと思う。

中須賀特別委員】是非やってくださいとしか言いようがない。我々も衛星つくるといった活動をしているが、若い人たちの宇宙に対しての関心はものすごく高くて、大学レベルだけではなく、高校、小学校、中学校のレベルの子供たちも、宇宙と言うと目を輝かせる。
 ヨーロッパ、アメリカでやっていることの例をあげる。ヨーロッパで、SSETI-ESMOというプロジェクトが2年ぐらい前に始まった。ヨーロッパの幾つかの大学の学生が、共同で月周回衛星をつくるというプロジェクトである。ESA(イサ)が音頭をとっている。ESMOとは、European Student Moon Orbiterだ。あと4年ぐらいで打ち上がると思う。アメリカでは、ASMOが始まったという。American Student Moon Orbiterだ。残念ながらJASMOはない。ヨーロッパ、アメリカは宇宙の中でも月が若者たちを熱狂させる1つのターゲットであるということに気づいて、将来に向けた人材育成の1つの題材として使っていると感じている。日本の人材育成に向けての活動は、ストラテジックな観点が弱いということは常々考えている。
 また、卒業して行くところがないということは非常に大きな問題である。宇宙の研究室には一番いい学生が来るが、卒業後行くところがない。

【青江部会長】JAXA(ジャクサ)でも実施したらどうか。

JAXA(ジャクサ)(樋口)】検討したいと思う。

中須賀特別委員】ESA(イサ)のSSETI-ESMOからは、日本の小さい機器を乗せてあげると言われている。まだ確定ではないが。我々は、もし本当にできるとなったらどういう機器を乗せるか検討を始めている。

【向井委員】学生を育てる側から、探査に関して希望が幾つかある。現状の探査計画は非常に時間がかかるのが1つの欠点で、準備から実際にデータがとれるまでに10年を超える期間がかかる。学生の周期は、マスター、ドクターを考えても5年ぐらいなので、そのぐらいの期間に、計画が始まってデータがとれる周期でプロジェクトをやっていただければ、学生としても自分なりに力が発揮できる環境になるだろう。

JAXA(ジャクサ)(川口)】(中略)飛行時間が非常に長いため、1つの計画が10年以上にわたってしまう場合もあり、その成果を見て立ち上げたのでは人材育成ができない。数年に1度のサイクルでプログラムとして月探査、太陽系探査を進めたいと考えている。

中須賀特別委員】補足であるが、大学の教官の立場としては、卒業した学生の行き先の基盤が小さくて、行くところがないということが問題である。学生の間に一生懸命衛星をつくる活動をやっても、それを生かす場がない。月探査をやるといって一時的に人を増やしても、また収縮するのであれば、その人材がほかのところに行かざるを得ないという状況になる。
 総体として、宇宙開発活動に携わる人たちを今よりも少し多くして継続的に抱えていくという国の意思があることが大変大事だと考えている。

【鶴田座長】難しい。基本的に、国の意思としてこういう価値あることを長い時間かけてやるというコンセンサスが得られていない。探査に関して、そういうコンセンサスがないから、国民からも信頼されていないというところがある。

【土屋委員】(中略)ブレークスルーを求める場合、予定調和的な議論だけに終わってはいけないと思う。その視点から言えば、昔の宇宙研に集まっていた若い人たちのエネルギーをどう今生かしていけるかを真剣に考えておられるのかというのが見えてこない。上の構造化よりも、下の熱気がどの程度保証されていくのかという点が、現在非常に危機的な状況にあるという気がする。

【山根委員】こういう場合、何でもJAXA(ジャクサ)、ISASに問うことになるが、現状を見ているとかわいそうな気がしてしまう。もう少し上のレベルで枠をつくらなければいけないのではないか。JAXA(ジャクサ)ははっきり言って手いっぱいであり、そこまではできないとなるのではないか。私が代弁してもしようがないが。

【鶴田座長】(中略)これは希望だが、こういうプログラムの成功には、学会とのコネクションが重要である。学会がどれだけサポートして実際に動くかということが、成功かどうかにつながる。学会がどのように物事を決めるプロセスを展開していくのかということも、是非頭に入れておいていただきたい。

JAXA(ジャクサ)(井上)】 先ほど土屋委員がおっしゃったことが、さっきから少し気になっている。旧宇宙研が持っていた良さを、今議論していることにどのようにつなげるかというご指摘であったと思う。
宇宙研でも、旧NASDA(ナスダ)でも、工学の研究者が新しい技術の芽出しをして、理学の研究者がそれを使って新しい科学の最前線を開くという形でやってきた。これまでのようにロケット、衛星という他国の技術を追いかけていくときには、工学の方々が新しく切り開いてきた。今、日本は各国と同じレベルまで来て、それをさらに発展させるためには、月・惑星探査が非常に重要な役割を果たすべきだと思う。

ペネトレータについて

JAXA(ジャクサ)(川口)】(中略)御指摘のように、ルナグローブへのペネトレータの搭載等の検討については、現在進行形としては科学本部で行われているわけであるが、月・惑星探査という大きな枠組みの中では、これは今後JSPECが担っていくものと考えていて、本日の資料としては主体的に投じていくミッションの部分を中心にお話をさせていただいた。ルナグローブ等、あるいは、ほかの利用については、御指摘のように、現在考えて検討を進めているところである。

JAXA(ジャクサ)(樋口)】(中略)我々はペネトレータはまだSELENE−2や3のミッションの一部としての可能性であり、トレードオフでいまだやっているわけであるが、(後略)

無人探査・自律探査について

【土屋委員】(中略)今、提案されている枠組みを見ると、対象として月、深宇宙という軸と、無人、有人という2軸がある。有人は、本格的にやるのはもう1つ先のステップだということになると、無人で月か深宇宙の2つの間での重みづけを検討する必要があると思う。どちらも、環境を認識し行動をとるという自律機能の技術化であるとシステム工学的にはとらえることができ、技術的には共通の部分が非常に多い。よって、二者択一という視点よりは、連続性を強く持ちながら具体的なミッションを考えていくことが技術的には重要だし、やりたいことの本質から言って可能であるように、私は思う。

【土屋委員】(中略)無人もやる、有人もやる、すべてやるという論理になっているように思う。むしろ日本の非常に強いところで、今まで蓄積した強いところを生かしていく立場に立って、12ページに「有人月探査に期待する」という項目に、「究極のその場観測・判断」というのがあるが、それを人間は地上にいて、リモートで非常にオートノマスなビークルを、月においてこれと同じことをやるという技術目標を立てるという選択肢もあるのではないかと思うが、その辺はどう考えるか。

JAXA(ジャクサ)(川口)】おっしゃるとおりだと思う。ただ、これはやはり一つ政策的な活動の動機の面を意識せざるを得ないところがあると思っていて、これはそれが第一の目的かどうかはまた少し違うところがあるかもしれないが、国際的な有人クルーとしての到達というところには、参加していくべきものではないかと考えていて、その有人活動に期待する意義として、その12ページ目の最初のダッシュのところを書かせていただいたということである。
 SELENE後継、無人探査機等において高度なロボティクス、あるいは、自律判断機能を持った探査機を送るということを、否定しているわけではない。

【土屋委員】私が言いたかったのは、むしろ選択肢の一つとして日本は有人に匹敵、あるいはそれにまさるような無人に集中するという基本方針もなくはないのではないかと思う。それは政治的な拘束条件が非常に強いということは理解するが、工学者の心意気、あるいは前回お話しした研究者の士気にも絡むので、少しコメントさせていただいた。

JAXA(ジャクサ)(橋本)】私はSELENE−2のプロジェクト準備というか、プリプロジェクトという名前になっているが、そこのリーダーをさせていただいている橋本と申す。
 土屋先生が御指摘の点は、むしろSELENE−2計画は無人であるのでふんだんにそういうことを取り入れて、無人でもできるところまでやるというのを是非やりたいと思っている。
 ただ、どこまでは無人でできて、どれが絶対有人でないとできないかというのはなかなか証明は難しくて、作業を定義すれば今のロボティクス技術をもってすれば大抵クリアできると思う。むしろ、想定していなかったことを有人が初めてできるので、やはりいつまでいっても有人探査は必要ではないか。ただ、有人探査ができるまでの無人のときには、従来アポロで有人でなければできなかったことは、我々は無人でもできるように、技術は開発したいと考えている。

【池上委員】前回おっしゃられた土屋先生のコメントで、自律機械システムという点では月であっても深宇宙であっても同じであり、技術として共通の流れがあるというお話がありましたが、私もそのとおりだと思う。
 ある方に、無人、有人の話をしたところ、日本はヒューマノイドロボットが得意であり、ひょっとしたら日本の得意の分野を伸ばすと、例えば10年先、あるいは、20年ぐらいであると、人間に非常に近いロボットでやっていけるのではないかという言い方をしていた。私は最初それは冗談ではないかと言ったが、ひょっとしたら日本の強いところを伸ばすという点では非常にオープンで、国民に対しても、あるいは、ロボットをやっている連中にとっても何か大きなビジョンを与えるのではないかという感じがした。

【土屋委員】(中略)僕は有人、無人の議論は広い意味で人間機械システムをこれからどう考え、どう開発していくのかという議論の宇宙版であるととらえるべきだろうと思う。
 それで、どこを日本がやるべきであるかという視点から考えていくときに、池上先生がおっしゃったように、日本は自律機械システム、そしてそれと人間とのインタラクションという分野では非常に強力な研究グループもあるので、有人、無人という議論とともに、どこをやるべきかということをこの際きちんと考えて、プログラムの精神として残していただきたいというのが私のコメントである。

JAXA(ジャクサ)(川口)】関連して。先ほど先生のおっしゃられた無人機でのというところであるが、無人ができない部分で有人ができる部分はもちろんあるのだと思っている。逆に言うと、実は有人ができない部分で無人ができるものがあるのである。だから、考え方として、有人でなければ、その場でなければできないものがあるというのはそれはそれで正しいが、先ほど土屋先生がおっしゃられたことと関連して言うと、無人でなければできないものもある。人間の五感というのは非常に範囲が限られているし、例えばそこに出ているほんのわずかな放射線が出ていたとして、それを人間が識別することはできないわけで、それをサンプリングするというのは人間はできないし、わからない。
 だから、おっしゃられていることは僕は両方とも正しいと言わざるを得ない。だから、有人でなければできないその場オペレーションも厳然として多分どこまでいっても存在すると思うが、逆に言ったら、無人でなければできないオペレーションは厳然として存在し得ると。これは最初に申し上げておかなければいけない点で、土屋先生の御質問に対してはそのようにお答えしたいと私は思っている。

【池上委員】おそらくこの今回のレポートのメッセージを一言で言うとすれば、ロボティクスで月をやるということではないかと思う。だから、それを膨らませるようなサイエンスドリブンの話等々がきちっとされていないと、政策レベルに持っていきようがないと思う。
 だから、有人については多分表現はあいまいになるかもしれないが、独自でやることは当然無理で、基本的には国際協力でやるということになる。やはり独自でやるポイントはロボットでやるということではないかと思う。

時期について

【水谷委員】(中略)2010年代中頃までに国際的な協調と連携のもとで、無人機による月表面着陸を遂行するということであろう。
 問題は、2010年代中頃と書かれているのが少し気になっていて、JAXA(ジャクサ)から出されているのは2010年代の前半と書いてある。僕も、今2007年であるが、やはり中頃では遅過ぎるのではないかという気がするが、前半と書くべきではないか。

独自探査について

JAXA(ジャクサ)(川口)】(中略)27行目に「国際協力の枠組みの中での独自性」と書いてあって、その下の30行目には、無人探査機を行う前提として「国際的な協力と連携の下で」と書いてある。
 決してこれは矛盾しているとは申し上げないが、主体性と独自性を本当に強めていくのであれば、本当は国際的協調と連携のもとでなければ無人機はやらないのかとなっていくが、これは全体として見るとトーンが少しどんどん流れていっているように思う。きちんと主体性と独自性を言うならば、最後のところは、無人機の探査をするのに国際的協調と連携をもちろん図るのであろうが、これだと、国際協調と連携のもとでなければというのが条件になっている。
 これはそうではなくて、主体性と独自性をもって我が国としては無人機の探査をやっていくのだと書かれるべきではないかと思うが、そうではないか。

JAXA(ジャクサ)(川口)】
国際協調と連携というのは非常に重要で、これはやはり活用してこれに取り組んでいく、それはそのとおりだと思うが、冒頭で、「かぐや」は非常に我が国としては諸外国が投じないときに「かぐや」ということを立ち上げてきて、主体性を持って独自性を持ってやってきたと書かれていて、ここに来ると、国際協調と連携のもとでないと無人機はやらないと書いてあると読めるのである。
 これはやはり何か主張が少しトーンダウンしているのかと思うが、そうではないのか。

【青江部会長】独自でやるという点においては、その独自がより高いのだと思えば後退しているのであろう。しかし、あのレポートの中、フレームワーク文書も、もう国際協力でもって一国でもってやるような時代ではないのだというもう時代の流れだと。

【鶴田座長】少し議論が抽象的になっているような気もするが、連携のもとで独自性のある計画をやるということは普通考えることであろう。

JAXA(ジャクサ)(川口)】(中略)いわゆる有人活動につながる活動については、それは一国でやるような時代ではないと、それはそのとおりだと思う。
 ここのところは2010年代中頃までの無人機による月面着陸の探査と言っていて、ここもこのようにそういう条件づけをしてしまうのかという。私は協調と連携は大事だと思って、非常に推進すべきだと思って、それはもう最大限努力してということはそのとおりであるが、少しトーンとして、文章としては縛りがきついのかと思う。

中須賀特別委員】国際協力メカニズムを動かすということに関してはもう当たり前だから書く必要はないということはそのとおりだと思うが、それとは別に、いわゆる日本として主体的に国際協力を動かしていくのだと、それの中心人物としてやっていくという意思表示があってもいいのかという気は少しするが、それは言い過ぎなのか。

インフラとしての技術開発について,アポロとの違いについて

【土屋委員】これは非常にかたいテーマ、必ずやらなければ行けないテーマである。しかし、これから本当に我々が宇宙工学、宇宙技術としてやりたいのは、もっとアドバンストなシステムを宇宙で作り上げたいのであろう。そういうことがここではなかなか読み取れない。何か非常に古くさいことをやるのであろうという印象を受ける。

【池上委員】結局、これは必要な最小限度のツールとしてのインフラであろう。それが書かれていると、表現によっては、アポロと変わらないのではないかと言われる。

JAXA(ジャクサ)(樋口)】こういうことを用いて、その中のまたミニマムのどうしても通過しなければいけない技術としてこれを挙げてあるので、土屋先生のおっしゃる意図は我々はわかっているつもりであるが、表現が技術で分けて書いてしまって、この技術をやるときに当然ロボティッスやそういうことはイメージしているわけなのであるが。

【青江部会長】(中略) 僕は非常に気になるが、これだったらアポロと同じことなのか。

【池上委員】同じと勘違いされる可能性が非常に強いのではないかと。

JAXA(ジャクサ)(橋本)】違いを強調しようと思って先ほど電池の件は御説明したが、この文章になってしまうと全く変わらなくなってしまう。

【池上委員】だから、着陸と移動と書かれていると、細かく説明してもエクスキューズとしか見られない。

JAXA(ジャクサ)(橋本)】(中略)もうやりたいことややるべきことはたくさんある。そういう意味ではこれは例示になってしまうが、では、その中でも、できればやるではなくて、絶対やらなければいけないことは何かというと、抽出するとこれなので、例示ではなくて決まっていることというか、ほぼ合意が得られていることだけ書けと言われるとこの3つになってしまう。そうすると、今度はアポロと違いが見えなくなってしまうと、そういうジレンマに陥っていて、新しいことを入れれば入れるほど、まだ議論が煮詰まっていないので、なかなかこういうところに書きづらいということになってしまっている。

【土屋委員】技術開発として見たときには、そういういわば基本的なツールとしての、先ほど池上先生がおっしゃったような技術というのは是非必要で、それはもうアポロから積み上げてきている。大切なことは、それをやり、かつ、将来的なもう少し広い意味での宇宙における自律システムの開発という視点を入れる。それから、それを使って先進的な科学ミッションに対してユニークなシステムを作り上げて世界をリードしていくという、先ほど青江先生がおっしゃった技術思想を表に出した書き方をしていただいた方がわかりやすい感じがする。

JAXA(ジャクサ)(川口)】だから、アポロとの違いというのはアドバンストとなってしまう。だから、そういうことなのである。だから、やはりアドバンストという言い方になって、それは変わってないのではなくて変わっているのである。このように御理解いただきたい。