かぐやに対する不安

順調に飛行しているかぐやですが,内情をよく知っている人達は,単なる新規ミッション特有のハラハラとは別種の不安を敏感に感じ取っているようです.

JAXA の中の人である「大木社長」さんが,かぐやの運用や月探査の将来に対する不安を語っておられます.中の人の言葉なので説得力がありますね….

結局のところSELENEではNASDA流の運用方式が採られ、トラブルの対処などあらゆる事項を書類で取り決めて責任を縦割りに分配してあるのですが、ISAS流の科学的観測が主であるSELENENASDA流の運用を踏襲して大丈夫でしょうか。

現場のメーカーの技術者からは、「こんなにガチガチに(書類で取り決め)したら、(いざというとき)うまくいくはずがない」との声が上がっているといいます。

メーカさんの意見は大事にすべきですよ.

SELENEの観測機器には高電圧を用いるものがいくつかあり、運用ミス等で万が一放電を起こすと衛星全体に影響し、最悪の事態も考えられます。
一方、月周回かつ3軸制御をするには軌道と姿勢制御のために頻繁なスラスタ噴射が必要で、このことは、高電圧を用いる観測機器を頻繁に再起動したり(噴射時はOFF)、軌道を精密に知る必要のある(軌道を変えたくない)重力場測定やレーダーのデータ処理に不連続を生じたりするなど、観測に様々に影響します。
このように、各観測機器と衛星システムとの間の関係は重大です。

大型月周回衛星SELENEには、SELENE-Bあるいは-2という後継機が構想されていましたが、今は白紙撤回されて、後に続くものがありません。

あれ,SELENE-2 は(今のところ)有人を見据えた利用調査ってことで割と前向きに検討されてるのかと思ってたのですが….白紙撤回されたら JSPEC が早速存亡の危機になりそうですが,これが本当だとしたら大変なショックです.

月探査の将来を考える上での大きな不安要素は、2020年から月面基地を作るというアメリカ主導の構想に、日本が参加することがほぼ間違いないということ。

宇宙開発全体で予算や人員は限られていますから、この計画にリソースをとられれば、成果の期待される他の多くのミッションが直に圧迫を受けます。

もう本決まりですか orz

大型の探査機というものは技術的にもマネージメント的にも難しいものですね.お金もなくロケットもそうそう飛ばせない日本には,小粒の衛星をたくさん飛ばすほうが性に合ってるのかも知れません.

ともかく,これで何かあったら筑波と相模原の関係は悪化するでしょう.ある意味,いわゆる "One JAXA" にとって一つの試練ですね.どうか,ミッションが成功して,筑波と相模原がさらに良い協力関係を築けるようになってほしいところです.

5thstar_管理人さんからも提言が.こちらも JAXA の内情をよくご存知の方ですので説得力あります.

管理人の理想像は、ISASの人たちが理想の探査機を追求できる柔軟な発想を持つこと。そのためには特定のロケットにこだわっていてはだめだし、いつまでも「工学試験」と銘打たないと予算をもらえない状況はだめだし、リアクションホイールをけちってまで観測機器を詰め込もうという、「零戦設計の美学」にいつまでも自己陶酔していてはだめだし、なによりJAXAの経営にISAS側からもっと人を送り込む必要があります。

同感ですね.予算の壁に縛られることも,JAXA 上層部に遠慮することもなく,もっと自由に気軽に探査機を打ち上げられると理想ですね.まあそれを具現化する手段の一つがイプシロンなのかな.

外の人が政府に働きかけるのもいいけれど、まずはISAS自らがもっと汗を流さないと。

まあ中の人はミッションのほうで汗を流しまくっててそんな余裕ない場合も多そうですがw.政治力がある人をもっと増強できるとよいのかもなあ.外の人としてはやっぱり活動の限界は感じてるので,中の人が活動しないまでもせめて外の人に対しどんどん状況を発信してくれるとありがたいです.はい.

松浦さんからもまた気になる情報が.

1985年に作られた臼田局の設備は老朽化しており、ぽつぽつ故障が起き始めている。設備更新の予算は支出されず、臼田局を利用する探査機の開発予算の中から、臼田局設備の修理維持経費を捻出しているのが現状だ。

げ.臼田もやばいんですか.これがなくなると相当なダメージです.

 そして、旧NASDA/ISASの計画管理や運用手法の違いによる、運用チーム内の軋轢がある。

 色々な反目の噂も聞いたし、「あれがうまくいっていない」「この分野の責任者が誰だか分からない」「会議に出てくるべき人が出てこない」というような話も頻出していた。

 今年春に、相模原に月・惑星探査推進グループ(JSPEC)が設立された。月探査の嚆矢となる「かぐや」も、筋から言えばJSPECの管轄になるはずだが、そうはならなかった。どうやら背景にはJSPEC対筑波宇宙センターの一部という対立関係があるらしい。

 宇宙開発委員会では、計画部会に月探査ワーキンググループができて、将来の月探査について議論を始めた。探査機が上がる、それも当初スケジュールからするとさんざん遅れて上がる、という時になってやっとこさ長期計画を議論するというのはいったいどういうことか。アメリカの有人月探査構想にせっつかれないと、そもそも議論すらできないのか。

 そしてまた、JSPEC(「月・惑星探査推進グループ」と、名前に「惑星探査」が入っている)と、「月探査ワーキンググループ」(有人も含め月探査のみ)という名前の齟齬はいったい何なのか。「惑星探査の予算を削ってアメリカ主導の有人月探査に振り向ける」ということなのか。

うわあ…嫌な構図だなあ.


しかしまあ,これだけ外の人から何かと心配されている独立行政法人はないんじゃないかと思います.宇宙開発自体に対する期待の大きさの現れでもあるんでしょうけど,JAXA そのものに対する期待も段違いじゃないでしょうか.もはやただの国研ではないんです.期待を裏切らない仕事をしていってほしい.そして,いろいろ問題は噴出しているにしても,その問題が一部だけでもこうして外に出てきている,そして中の人や外の人がそれに対して意見を述べている.かぐやに対する不安要素がちゃんと公表され共有される.これは非常に良いことだと思うのです.まだまだ足りないとは思いますけどね.


余談ですが,大木社長さんのブログのこちらのエントリにある,のぞみが撮影した月面の写真が実に見事です.こんな写真あったんだ.


追記(2007-09-21):
Space Fighter Now さんのところ.いろいろ意味深そうでとても怖いのですが.

俺が見た感じではそう言う問題では無いように見える。キーワードは「箸にも棒にもかからない」だ。

ま、なんとか工業会の陰謀ってことにしておきましょう。