松浦さんの記事「実現の瀬戸際に立つ『はやぶさ2』」

はやぶさ2が危ない (2) 「外国のロケットを使うよう指示されている」 - はやぶさまとめニュースの件ですが,松浦さんが記事を書かれています.前回はこっちもついカッとなってしまいましたので(笑),今回は自重しつつ読みました.

まあ,マイコミジャーナルの記事と以前の L/D の記事で既出の話ですので,特に目新しい情報があるわけではありません.外国のロケットでの打上げの件については,正直なところを言いますと,まだこれだけではなんとも判断しがたい,という印象です(これはマイコミジャーナルの記事についても同じことがいえます).読者が得られる情報は「指示されている」という言葉だけですので(しかもマイコミジャーナルは又聞きのようだった).ただ,恐らく松浦さんは敢えて今回問題提起のために,どちらかというと扇情的な物言いをされているのだと思います.

ちなみに以下は素人の勝手な邪推であって根拠はまったくなく,見当違いの可能性もかなり高いのですが,「外国のロケットを使え」という理由の一つは,H-IIA 用キックモータのようなものを開発する余裕がないということなのではないかなあとふと思いました.いくらなんでも国際協力が理由というのはおかしいですからね.「いや,それは違うんじゃね?」ということがありましたらお知らせください.

はやぶさ同型機ということは衛星側にモータはありませんから,惑星間空間に直接投入しないとなりません.この際にキックモータがあれば,PLANET-C みたいに第 2 段の燃え殻を引きずって目的地まで行く,なんてことにならずにすむかも知れません.それでまあ,はやぶさ2軌道投入に上段ステージが必須なのかどうかは不明ではありますが,もしそうだとすれば,予算的あるいは時間的な余裕がないから外国のロケットにしてくれ,という論理があり得ます.それなら不可解な点はないのですが(ちなみに立川理事長は

1回のH−2Aロケットの打上げで科学衛星と他の衛星を同時に打ち上げるためには、新しい第3段目を考えた方がいいと思っているから、これはM−5ロケットの知見を活用しようということで、第24号科学衛星(PLANET−C)もそういう方向で検討している。おそらく、それほど御心配いただかなくても大丈夫かという気がしている。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/uchuu/haifu/h18/keikaku/07082105.htm

という発言をされているので,これが 2010 年の PLANET-C に間に合ってくれるなら杞憂なのですが).ただですね,本当にそうだとしたら川口先生も「国際協力のため」なんて理由でなく堂々と真実を公表されるはずなので,やっぱり何か別の言えない事情があるのだろうかと勘ぐってしまいますね.

この件に関していくつか反応が出ています.皆さんさすがに冷静ですね(笑).

isana さんの

そこへ、「いまならまだ間に合うから」という理由で、前回のミッションの評価が済んでおらず、実現性やサイエンスの評価が済んでいないミッションにいきなり数億の予算をつける、というのはちょっと虫のいい話だ。

http://www.lizard-tail.com/isana/diary/?date=20070925#p02

というのは確かに一理あると思います.はやぶさシリーズはかなりイレギュラーな事態になっているのは事実です(もっとも,従来の科学衛星選定の枠組みから外れてシリーズ探査をやりやすくするために JSPEC ができたわけなので,ある意味当然の帰結ではあるのですが).それに「いまならまだ間に合うから」というのは理由にならないですよね.なぜなら「いま上げなければ間に合わない」のは他の衛星やミッションにもたいてい当てはまることだからです.概算要求レベルまで来るようなミッションはそれなりにみなそういう状況になっています.いくらプログラム探査が大事だからといっても「こっちはこっちの事情があるんだよ」と言われないとも限りません.さらに,はやぶさは輝かしい成果をたくさん挙げましたが,正直失敗した部分もかなり多くて(特にサンプル採取が定かではないというのは大きい),綱渡り運用で凌いでいますが綱渡りは本来あまり褒められたものではないですし,そういった点が多少懸念事項ではあります.以上はすべて外野の勝手な推測ではありますが,そういう下地は少なからずあるとは思います.

あと

でも逆に考えれば、これは「打ち上げ費用は出せないけれど、探査機の開発ならどうにかなるかも」ということなんじゃないだろうか。少なくとも、打ち上げ費用が出ないにも関わらずプロジェクトが存続している、という点では悪いばかりのニュースじゃないのかもしれない。

http://www.lizard-tail.com/isana/diary/?date=20070925#p01

というご意見も注目しておきたいですね.「無条件に中止しろ」と言われているわけではないのですから.確かに生かさず殺さずの状態ではありますが,少なくとも計画は生きているわけですから.


最後に,最近またgdgdと考えていることを少し書かせてください.また繰り返しになってしまうのですが,やはり他のミッションとの兼ね合いですね.今回のニュースについて,「JAXA の他のミッションチームの嫉妬によるものだ」とか「宇宙研内で足を引っ張っているのだ」とかいうような意見もあるようです.管理人は,JAXA の人間はそんな幼稚なことはするわけないと思っているのですが,ただやっぱりそれとは別に彼らの心情として,嫉妬までは行かないまでも「はやぶさはあんなに応援してもらっていいよなあ」という気持ちはどうしてもあるんじゃないかと思うのです(自分だったら絶対そう思います).たとえば「はやぶさまとめ」や応援キャンペーンなどの存在が,他のチームの中の人に少なからず心苦しい思いをさせているんじゃないか.宇宙開発全体にとって良かれと思ってやっていることが,裏目に出ることもあるんじゃないかということですね.仮にもし応援のおかげではやぶさ2が承認されたとしたら,応援キャンペーンは蹴落とされたミッションの関係者達に大変な痛みをもたらしたことになります.「おまいらのせいで人生狂った」と言われても文句はいえないわけです.それでいいんだろうか.もちろんそれを言ったら世の中のあらゆる応援行為は同じ業を背負うことになるんですが,宇宙開発全般を愛する人間としては「いや自分はそれでもはやぶさ2を応援するぞ」という覚悟がどうしても持てないでいるんです.「今年もやります」なんて書いたわりに,どうも今年歯切れが悪いのはそういうわけです.ヘタレ過ぎてすいません.まあ,この手の運動が苦手っつーのもあるんですけどね…無責任なのはわかっていますが,このまま突き進むのはもっと無責任かなあと….

もちろん他の方の応援活動に対しとやかくいうつもりは全くないですし,むしろ一はやぶさファンとしてはそういう方がたくさんいるのは大変うれしいことです.ただ,あくまで自分自身の心情の問題として,自分で応援キャンペーンを張ることに対してはもう少し慎重さが必要なのかもという気がしています.とはいえ,はやぶさチームが応援を求めていることは紛れもない事実ですので,何かいい方法がないかどうか,考えていきたいとは思っています.

いずれにしてもまだ答えは出てないのですが.チラ裏ですいません.ご意見などありましたらお願いします.


あ,ちなみに Wiki のほうですが,既に不特定多数の方がずいぶん手を入れてすばらしいコンテンツを作って下さっており,完全に「皆さんのもの」ですので,ここのgdgdなどは気にせず今後とも編集してくださっていっこうにかまいません.よろしくお願いします.