「星になったチロ―イヌの天文台長」

天文ファンにはおなじみの藤井旭さんの愛犬,チロと星仲間達の物語.

星になったチロ―イヌの天文台長 (私の生き方文庫)

星になったチロ―イヌの天文台長 (私の生き方文庫)

以下,ネタバレ含みます.


チロはただのイヌではありません.なんと,白河天体観測所という天文台の正式な台長でもあるのです.そんなチロと天文台の星仲間達との交流を描いたノンフィクションです.まさかと思うような珍事件や数々の御手柄は語っても語っても尽きません.誰からも愛されるチロを描く筆致は実に暖かく,子供さんはもちろん大人もすっかり引き込まれてしまいます.星好きの人ならニヤリとしたりうなずきたくなるようなエピソードも満載.また大量の写真が掲載されており,イヌ好きにはたまりません.愛くるしい子犬時代のスナップから,成犬後のアイヌ犬独特の凛とした姿.天文ファンが集まる場の写真には,いつもチロが写っています.写真を眺めるだけでも癒されます.チロだけでなく,藤井さんによる美しい天体写真も多く収録されています.

天文学者から全国の天文ファンに至るまであらゆる星仲間と仲良くなり,テレビに出演したり,隕石捜索隊を率いたり,果てはイベントを取り仕切って数千人もの人を集めたり….管理人はそれらをリアルタイムでは体験していませんが,本書を読むと,チロが当時の天文界にとってどれほど大きな存在だったかを想像することはできます.恐らく天文家なら知らぬ者はないアイドル犬だったに違いありません.そしてたぶん,今でもチロは伝説的存在として天文ファンの間で語り継がれているのでしょう.一度会ってみたかったなあ.

ちなみに管理人が幼少時この本を読んだ際,藤井さんや星仲間達の暮らしぶりを心底うらやましく思ったものでした.この本を読む限りでは,気の向くまま愛犬を連れて天体観測に興じたり,ふと思い立って天文台を作ってみたり,イベントやアストロ鍋で盛り上がったりと,子供心に「人間ここまで趣味と道楽を突き詰めた生活ができるのかw」と感心してしまうほどの自由な暮らしに思えたのです.実際は雑誌の編集やイラストの仕事などを本業にされていたわけで,今読み返すと別に遊び暮らしていたわけでもなんでもないことがよくわかるのですが,それでもやはり自分の天文台を持っているというのは魅力ですよねえ.

チロが台長を務めた白河天体観測所は今は大野裕明さんが個人観測所として運営されており,残念ながら一般への公開も場所の公表も行うつもりはないとのことです.

しかし,福島市にある浄土平天文台に行けばチロの座像やチロアルバムが見られるそうです.

近年オーストラリアには藤井さんによって,姉妹天文台としてチロ天文台が設立され,さらに小惑星 1995 UW8 に「チロ天文台」という名前がつけられているとのこと!