東工大キューブサットを率いる松永先生インタビュー

CUTE-I,Cute-1.7+APD などのキューブサットを次々と宇宙に送り出している東工大の松永研ですが,松永先生へのロングインタビューが Tech 総研に掲載されています.

最初からキューブサットに対する強い思いを抱き続けて今に至ったのかと思いきや,そうでもなかったというのは少し意外でした.しかし謙虚さを保ちつつも目標に向ける信念と闘志,教育にかける真摯な熱意は,やはりさすがです.

ところが大学院、宇宙科学研究所に行くと、本当に宇宙科学を実践しようという人たちがたくさんいた。ものすごいエネルギーをかけてやっているんです。そもそも宇宙工学はフィールドが膨大です。あらゆる学問が関わる。ところが、ロケットの研究開発に従事している人たちにしても、打ち上げ時のほんのわずかな時間でミッションの遂行を求められる。部品数にして数十万から数百万以上。それを、完璧に動かさないと失敗してしまう。不具合になったとしてもバックアップする機器が動くシンケーシャルな仕組みも必要になる。

それでもなぜこの分野にこだわっているのかといえば、とんでもない高い目標をクリアするという体験は、ほかでは味わえない大きな醍醐味をもたらすから。そして関わっている人全員が、一発勝負に向けて集中していく盛り上がりというのは、ほかにはまずないものだから。そうみんなは言う。そんな宇宙工学の現実と魅力を、僕も大学院以降、だんだんわかるようになっていきました。

賞をもらえばもらうほどむなしさは募ってしまって。面白いアイデアや概念に満ちたミッションを行う衛星の基礎的な概念設計はできても、実際にモノが作れない、と。これは相当に寂しいことだったんです。

何が起きるかわからないから、と窒素封入した部品レベルで持っていき、現地で組み立てをしました。代表で行った学生の緊張ぶりを今も覚えています。組み立ての前日、完全に理解しているはずの組み立て手順を何度も何度も確認していました。まったく眠れなかった学生が何人もいました。ここに来られなかった研究室の仲間たちの努力を、みんな痛いほどわかっていたからです。絶対に失敗できない。翌日、無言で必死に衛星と格闘する学生の姿を、僕は生涯、忘れられません。

さらに印象深かったのが、MLIと呼ばれる多層断熱材。取り付け方はいろんな方法がありますが、ロシアは布状のものを服のようにして手縫いで付けるんです。ここで出てきたのが、なんと60歳は軽く超えていると思われる老婆。もう何十年も前からこの仕事をしているとのことで、手際よく縫い付けていくんです。ロケットと老婆という組み合わせは、なんとも不思議なものでした。

今は衛星づくりを指導というか見守る立場にいますが、これは経過のひとつだと思っています。これから先はどうなるかわからない。人生とはそういうものです。具体的に何をしたらいいかわからない中で、目の前に降ってきたものに取り組む。それしかないと僕は思っています。流れのままに、生きていければいい、と。