はやぶさ,イオンエンジン D が劣化し停止するも,A と B のニコイチ運用で帰還運用を再開
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ! という気分ですがwwww,11/4 にはやぶさのイオンエンジン D の中和器が劣化して電圧が急上昇し,自動停止していることが確認されました.
- JAXA|小惑星探査機「はやぶさ」のイオンエンジン異常について
- http://mainichi.jp/select/science/news/20091110ddm012040174000c.html
- http://www.yomiuri.co.jp/space/news/20091109-OYT1T00774.htm?from=y10
劣化や動作不安定などの理由で、動かしていなかったエンジン2台についても再起動を試みたが、動かなかったという。
現在、はやぶさは地球から約1億6000万キロ・メートル離れた場所を進んでいるが、残るエンジン1台だけでは、スピードが不足するため、うまく地球に帰還できない。
- http://www.47news.jp/CN/200911/CN2009110901000873.html
- 探査機「はやぶさ」エンジン異常 地球に戻れない可能性も - ITmedia NEWS
- http://journal.mycom.co.jp/news/2009/11/09/035/?rt=na
- Robot Watch-ニュース--小惑星探査機「はやぶさ」のイオンエンジンに異常
スラスタCは稼働するものの、こちらも中和器の電圧は高い傾向にある。
つまり,
- A: 打上げ直後に推力不安定のため運用を中止.今回単独再起動を試みたが起動せず.運転時間 10 時間
- B: 往路は稼動し,復路でも 2007 年 3 月より加速を実施したが,中和器の劣化により 2007 年 4 月 20 日運用を中止.一部性能低下が見られる.機能維持温度を逸脱する環境履歴を経験しており,近日点付近では高温化のため作動不安定性が散見された.今回単独再起動を試みたが起動せず.運転時間 9,600 時間
- C: 往路は稼動したが,2006 年の復旧運用では稼動せず,2007 年 8 月に再稼動し,以降 2007 年 10 月の第 1 期軌道変換完了まで稼動.現在稼動するが,中和器の劣化による電圧上昇の傾向は生じており,推力も 5mN しか出ない.運転時間 8,000 時間 (2007 年 8 月時点.現在はもっと多いと思われる)
- D: 往路は稼動し,復路でも 2007 年 3 月より加速を実施.2007 年 8 月に,残存寿命の温存のため運用を中止し,同年 12 月までは C で加速.その後の第 2 期軌道変換でも稼動していたが,推力も 5mN しか出なくなり,11 月 4 日に中和器劣化により電圧が上昇し,安全装置が作動して自動停止した.運転時間 15,000 時間.
ということですね….なお,各スラスタの設計寿命は 14,000 時間です.
そもそも稼動可能な C,D の推力が 5mN まで落ちており,地球帰還のために 2 台運転をしていたようなのですが,D が止まってしまうと必要な推力が足りず,2010 年 6 月の帰還が危ぶまれていました.あの松浦さんでさえ,「最後」を覚悟したようです.
ただし、――私の感触なのだけれども――これは本当に“最後”を覚悟しておいたほうがいいのかも知れない。
はやぶさスレでは,「今週のはやぶさ君」の 11/5 分の冒頭にいつもの「今日も、はやぶさ君は地球に向かって順調に航海を続けています。」というようなお決まりの一文がなかったことで,プレスリリース前に「これは何かあったのではないか」という危惧が取り沙汰されていました.はやぶさスレの危機察知能力も空恐ろしいものがありますが….おまいらは IGS か.
「今週のはやぶさ君」の
それでも、何とか、良い方法を見つけようとがんばっています。
という中の人の言葉を信じ,isana さんの
いま「はやぶさ」は、天球上のかに座のあたり、火星のすぐそばにいます。
isana on Twitter: "いま「はやぶさ」は、天球上のかに座のあたり、火星のすぐそばにいます。今夜は月のすぐ隣、真夜中に東から昇ってきて ( http://bit.ly/44qM0P )、5時ごろ南中します( http://bit.ly/3XhDyK ) 。"
という言葉を頼りに火星の方角に思いを馳せ,何やら裏技や記者会見の予感があるらしいという噂に一縷の望みを託しながら,粛々と待っていたところ…
とんでもない朗報が来ました!
スラスタAの中和器とスラスタBのイオン源を組み合せることにより、2台合わせて1台のエンジン相当の推進力を得ることが確認できました。
なななんですか,このロバスト過ぎるニコイチ運用は.別々のスラスタの中和器とイオン源を組み合わせるなんて,そんなことができるのか.という感じですが.
- http://www.asahi.com/special/space/TKY200911190436.html
- http://mainichi.jp/select/science/news/20091120ddm012040016000c.html
- http://osaka.yomiuri.co.jp/science/news/20091120-OYO8T00939.htm
- はやぶさ、地球帰還へ 停止エンジン2基をつなげて推進力獲得 - ITmedia NEWS
- http://www.jiji.com/jc/zc?k=200911/2009111901007
プレスリリースに先立って記者会見が行われましたが,大塚実さんが一言一句を tsuda ってくださり,twitter 上は大変な祭り状態に.
帰還を続行します
大塚実GO on Twitter: "帰還を続行します"
続いて松浦さんも記者会見のレポをブログにアップ.
毎日 こういったトラブルを想定して回路を積んだのか。
國中 そうだ。
川口 帰還に必要なデルタVは2200m/s。すでに2000m/sは達成。残るは200数十m/s。現状では2010年6月の帰還は可能。しかしさらなるトラブルが起きると2013年帰還となる可能性もある。
國中 はやぶさは、設計時の重量制限が厳しかった。色々考えた末にダイオードひとつを追加するだけで今回のような運転が可能な電源回路を組んで搭載した。
朝日 スラスターと中和器の位置がノミナルと変わるわけだが、推力方向が変化してしまうことはないのか。
國中 実際そういう現象も観測されている。ただし推力ベクトルの角度のずれは1°以内で、イオンエンジンの首を振るジンバルで修正可能な量。ビームのよれがおきるという現象は、宇宙プラズマ物理にとっても貴重な知見である。
國中 この11月から臼田局は改修工事を行う予定だったが、今回の事故を受けて、工事の開始を一週間遅らせてもらった。現在は臼田の工事が始まったために、鹿児島内之浦の34mアンテナで通信しているがこれだと臼田に比べてビットレートが1/4になる。ぎりぎりで臼田が使えて幸運だった。
川口 Cは推力がないので、それほど加速できない。例えば来月にでAとBによる現状の運転が不調になると2013年になるだろう。しかし不調になるのが来年2月3月ならCだけで6月に間に合うだろう。年内に再度故障が起きたら2010年帰還はアウトと思ってもらいたい。
川口 エンジン停止の時は「来るものが来た、これはもう2013年帰還か」と思った。
國中 電力収支が厳しかったので、100W近くの電力を消費する通信機をいったんとめてAとBを運転、データを記録して通信を復帰してから送信するというやりかたで、動作試験を行った。通信復帰の途端に、はやぶさからの電波のドップラーシフトが不連続にジャンプしたので、「これは動いたぞ」と思った。
不明 ホイールがダメになったらもうギブアップか。
川口 その場合も方策は考えているがかなり致命的だと思う。
大塚実さんも Robot Watch に詳細なレポを掲載.プレゼン資料もあり,これによると現在の組み合わせ以外にもさらにまだ稼動可能な組み合わせが存在している模様です.
この方法の問題として、消費する推進剤と電力がともに2倍となってしまうが、推進剤の残りは十分あり、電力も太陽に近づいているので問題ないとのこと。またイオン源と中和器が本来よりも離れているため、イオンビームがわずかに偏るという問題も起きているが、±5度の角度で動作できるジンバルによって修正可能なレベルだという。
マイコミジャーナルも詳しいですね.
「当初スラスタBとDの組み合わせて試験を行い、失敗した」
「すでにスラスタA+Bで計算上の必要推力を達成しており、スラスタCの運用については今のところ考えておらず、バックアップに回す予定」(川口氏)
はやぶさ映画「HAYABUSA -BACK TO THE EARTH」の上坂さんのブログ.映画の CG の図解で見ると,位置関係がよくわかりますね.A の中和器と B のイオン源は意外に遠い.
いや,もう,ほんと,どこまで秘策があるのかという感じですが,運用チームの皆様,本当にお疲れ様です.特にイオンエンジンのチームの皆様,もうこれは技術者の鑑ですね.すばらしいニュースをありがとうございます.
詳しい解説を書かれたページも続々登場.特に以下の 2 つはさすが,いつもながら秀逸です.
これを受けた 2ch の盛り上がりは尋常じゃありません.あちこちでスレが乱立した上,ニュー速+ではなんと 9 スレ目という科学ニュースではありえない数字に突入.スレ立て 4 日目の制限によって 9 スレで終わりましたが,まだまだ関連スレでは熱い発言が続いています.タッチダウンの時でさえ,3 スレ目までしか行かなかった (実況スレは 10 スレ行きましたが,実況だからありえる話です.今回はただの「ニュース速報」に過ぎません) ことを考えると,これがどんなに異常な事態かわかるでしょう (キャプφさん,いつもながら迅速な捕捉どうもです).
- 【宇宙】小惑星探査機「はやぶさ」のイオンエンジン異常について
- 【宇宙】小惑星探査機「はやぶさ」の帰還運用の再開について
- http://mbl.ptu.jp/space/kako/1257774531.html
- http://mbl.ptu.jp/space/kako/1257842260.html
- http://mbl.ptu.jp/space/kako/1258645503.html
- http://mbl.ptu.jp/space/kako/1258649603.html
- http://mbl.ptu.jp/space/kako/1258657406.html
- http://mbl.ptu.jp/space/kako/1258679875.html
- http://mbl.ptu.jp/space/kako/1258688686.html
- http://mbl.ptu.jp/space/kako/1258706031.html
- http://mbl.ptu.jp/space/kako/1258738394.html
- http://mbl.ptu.jp/space/kako/1258776917.html
- http://mbl.ptu.jp/space/kako/1258818361.html
- http://mbl.ptu.jp/space/kako/1257762812.html
- http://mbl.ptu.jp/space/kako/1257842561.html
- http://mbl.ptu.jp/space/kako/1258622130.html
- http://mbl.ptu.jp/space/kako/1257771480.html
- http://mbl.ptu.jp/space/kako/1258635893.html
- 探査機「はやぶさ」帰還ピンチ 残るイオンエンジン1基に [11/09]
- 小惑星探査機「はやぶさ」の帰還運用の再開について
- 【科学】小惑星探査機:「はやぶさ」地球帰還ピンチ [11/10]
- http://mbl.ptu.jp/space/kako/1258644960.html
- 【宇宙】映画サマーウォーズの「あらわし」の元ネタ探査機「はやぶさ」帰還ピンチ!イオンエンジンが故障
- http://mbl.ptu.jp/space/kako/1258643717.html
816 名無しのひみつ [sage] Date:2009/11/23(月) 22:15:42 id:Pr5DWSjU Be:
>>813 ↓こうですか
なんということでしょう
匠はイオンエンジンBのイオン源とイオンエンジンAの中和器とで
エンジンを起動させたのです!
吹いたwwwwwww
さらに,ニコニコ動画でも関連動画が数多く投稿されましたが (詳細は一覧参照),なかでも
はなんと 20 万再生をとっくに超え,投稿以来「科学」カテゴリで 1 位を独走というとんでもない状況です (ちなみにここのところ,1〜3 位をはやぶさ動画が独占しています).この動画,突っ込みどころも多少あるのですがw,それにしても熱い! 熱すぎる! この「真田運用」に関しては稿を改めます.
はやぶさまとめ Wiki も,イオンエンジン停止時には普段の 10 倍,復活時には 100 倍くらいのアクセスが来ていました.2ch といい,ニコニコといい (見てる所が偏ってますがww),タッチダウンの時もかくやのこの盛り上がり,今回の件ではじめてはやぶさを知ったという人もかなりいるようです.4 年前は宇宙オタの熱狂にとどまっていたのに対し,明らかに祭りの参加者の裾野が広がっている気がしますね.恐らく「かぐや」や HTV の大成功,宇宙飛行士長期滞在に加え,世界宇宙年や日食などで,確実に宇宙や日本の宇宙開発に対する認識が上がってきているのだろうと思いたいところです.
もちろん今回のニュースは海外でも広まっています.いくつかのメディアが報じているほか,米国惑星協会の Emily さんもいち早く報道してくれています.
- Hayabusa's still coming home: JAXA engineers come up with yet another creative solution | The Planetary Society
- Hayabusa stumbles on the path back to Earth | The Planetary Society
Have a spacecraft in trouble? Talk to JAXA! Hayabusa's engineers have saved the mission yet again!
Emily Lakdawalla on Twitter: "Have a spacecraft in trouble? Talk to JAXA! Hayabusa's engineers have saved the mission yet again! http://bit.ly/39dncB"
懐かしの JSPACE でも松浦さんの記者会見レポの翻訳が今回も始まろうとしていますよ.
うーん,isana さんの発言が心に響きますね.
お忘れかもしれませんが、現在はやぶさは姿勢制御用のスラスターが全滅、3つあるリアクションホイールのうち2機が故障という状態。太陽光圧と燃料のキセノンガスの生噴射で姿勢制御をするという超絶技巧運用の真っ最中です。
isana on Twitter: "お忘れかもしれませんが、現在はやぶさは姿勢制御用のスラスターが全滅、3つあるリアクションホイールのうち2機が故障という状態。太陽光圧と燃料のキセノンガスの生噴射で姿勢制御をするという超絶技巧運用の真っ最中です。#hayabusa"
今回これに加えて、不具合を起こしたエンジンをニコイチにして運用する、という裏ワザが飛び出しました、って簡単そうですが、今はやぶさがいるのは裏の駐車場じゃありません、火星のそばです。とんでもないことをやってるんです。あのチームの人たちは。
isana on Twitter: "今回これに加えて、不具合を起こしたエンジンをニコイチにして運用する、という裏ワザが飛び出しました、って簡単そうですが、今はやぶさがいるのは裏の駐車場じゃありません、火星のそばです。とんでもないことをやってるんです。あのチームの人たちは。 #hayabusa"
それにしても,これまでにもはやぶさ祭りは何度かありましたが,今回ほど twitter の有効性を思い知ったことはありません.というわけで,管理人も twitter のアカウントを取得してみました.ここの更新もままならないのにつぶやいてる暇なんてなさそうなので,専ら他人の発言をフォローするだけになりそうですが….
追記 (2009-11-26):宇宙開発委員会への報告も出ましたね.記者会見で出たらしい図が載っています.
いくつかの新聞でもさらに記事が掲載されています.