かぐや月に還る

2007 年に打ち上げられた月周回探査機「かぐや」は,後期運用で高度をさらに落とし,高度 11km という超低高度からの動画などで世界を驚かせた後,6 月 11 日ついに GILL クレータ付近に制御落下しました.
また 6 月 30 日には「おうな」の停波運用が行われました.

落下時の閃光はオーストラリアやインドの天文台で捉えられたそうです.

かぐやが撮影した動画は数え切れず,管理人も全部書き下す気力がもうないのですが,YouTube JAXA チャンネルなどで見ることができます.ラストショットはすごいです.本当に最後の最後までデータを送ってきたのですね.

かぐやのデータからは,月面に溶岩チューブとよばれる縦穴が見つかるなど,興味深い発見が次々と続いています.春山さんの ISAS メールマガジンの記事は,熾烈な国際競争の厳しさと世界初の発見の興奮という,研究者のエキサイティングな人生を垣間見せてくれます.

そして今月からはいよいよ観測データ (L2 プロダクト) が一般に提供されました.

素晴らしいミッションでした.ハラハラドキドキの「のぞみ」や「はやぶさ」もwktkしますが,「かぐや」のように安心感のある宇宙探査の姿,これこそ宇宙探査ミッションが本来あるべき姿だと思うのです.それだけ技術も成熟してきたのでしょう.アウトリーチの力もまざまざと実感しました.開発・運用チームの皆様,本当にお疲れ様でした.かぐやの成功が,日本の宇宙探査の追い風となることを切に望みます.

ISAS ニュース 336〜343 号

出てます.

4 月号は「あかり」特集.かなりの読み応えです.7 月号の「かぐやが月に還った日」はじーんときます.同じく 7 月号の「紙袋から水星へ」も面白いですね.宇宙開発におけるロシアの強さを裏付けるのはこういう思想なのでしょう.NASA では多分考えられない.

ロシアのエンジニアが性能試験のために初めて試作機を携えて来日した際には,雨の中,機器を紙袋に入れて移動しているし,次のときにはスーパーのレジ袋でした。なぜこんな袋で運ぶのかと聞いてみたところ,「これくらいで壊れるようなら,水星に行く前に壊れるよ。これは大丈夫」という返事が返ってきました。

また同じく 7 月号の最後には小型科学衛星 1 号機 SPRINT-A のミッションマネージャの方の話も載っています! 9 月号は的川先生はじめ日食を見に行かれた方々の手記.最近の「宇宙・夢・人」は,旧 NASDAJAXA 筑波から相模原に異動された方が多いですね.文化の違いを乗り越え,宇宙研の伝統を尊重しつつ新たな歴史を作っていこうと努力しておられる方々の話は興味深いです.

はやぶさなど科学衛星の名前の由来が毎日新聞記事に

毎日に面白い記事が出ていました.記者は,はやぶさタッチダウンの頃にも良い記事を書いておられた元村有希子さん.

火星探査衛星「のぞみ」(98年)も一例だろう。トラブルで火星の軌道に入ることはかなわなかったが、初の惑星探査機開発に苦闘した関係者の思いを込めた。「新幹線と同名だからJRに通告しなくていいか聞いたら、西田篤弘(旧宇宙科学研究所)所長が『新幹線の100倍速いんだからいいだろう』と言ったのを覚えてます」と的川さん。

JAXAの阪本成一教授が「その奮闘を見守ってほしい」と話す「はやぶさ」は、来年の帰還に向け、現在地球を目指す。03年に打ち上げられ、小惑星イトカワ」に到達し、金属球をぶつけて地表の破片を地球に持ち帰る任務を負う。上空から狙いを定め、獲物をつかんで飛び立つハヤブサのイメージから命名された。事前投票では「アトム」が圧勝。「鉄腕アトム」が打ち上げと同じ03年生まれで、自律航行する同衛星をロボットに見立てた案だったが、「原爆を連想させる」とお蔵入りになった。

一方、今秋、国際宇宙ステーションに物資を届けた日本初の無人補給機「HTV」に愛称はない。JAXAは「使い捨てだから」と説明する。

個人的には,HTV も 1 機ごとに名前をつけてほしいなあ.ESA の ATV 1 号機がジュール・ヴェルヌといういい名前をつけているのがうらやましいですね.使い捨てと言われると,他の衛星だって使い捨てだし,何しろ宇宙に数日しかいなかった OREX や VEP もちゃんと「りゅうせい」「みょうじょう」という良い名前をもらっているのだから….

使い捨ての国産ロケット「H2A」は、デビュー(01年)に合わせて99年、公募で「金太郎」という愛称が内定したが、前身のH2ロケットはトラブル続きで、命名が見送られた。

これは知らなかったなあ.

なお,はやぶさの名前の由来については,2ch でこんなコピペが出回っていました.

心の琴線に触れる話ですが,少なくとも JAXA の公式見解ではないという見方が強いようで,公式には上記の毎日の記事のようにサンプルリターンの様子からということだと思います.そもそも,イトカワにその名がついたのははやぶさ打上げ後なので,どう考えても後付けでしょう.ただ,的川先生の講演ではこの一式戦闘機「隼」,寝台特急はやぶさ」の話も挙がっていたようで,多分,公式ではないけれども多少あやかってはいるんだろうなあと思っています.

ちなみにこの話はニコニコ大百科にも非常に詳しく載っています.GJ!


追記 (2009-11-29):はやぶさの名の由来はここも非常に詳しいですね.

はやぶさカプセル回収準備が着々と進められる

はやぶさは来年 6 月に地球に帰還し,カプセルをオーストラリアのウーメラ砂漠に落としますが,そのカプセルの回収準備が宇宙研で着々と進められているようです.

ASTRO-G プロジェクトの川原さんによるコラムです.はやぶさチームだけでなく,ASTRO-G など色々なプロジェクトの人を総動員しているのですね….「方探班」…ISAS 伝統の「○○班」ですね.wktk

この重要な方向探査に用いるアンテナは非常に簡素なものです。家庭で使用しているテレビ受信用のアンテナ(八木アンテナ)を水平方向に2台並べて固定し、そのアンテナをローテータ(回転装置)に取り付けて、全体をアンテナ架台に固定すれば完成です。

実際のカプセル回収の舞台となる砂漠へ赴き、方探実験を実施して参りました。

おなじみ「宇宙の電池屋」曽根さんのコラム.相変わらず熱い.そして泣かせる.…でも「読書感想文」の部分,「宇宙兄弟」を読んでないと正直わけわかめかも知れないww

 訓練を通して個人的にバリバリ感動したのは訓練用の模擬カプセルからのビーコンを捕らえた時だった。
「そうだ、この信号を、来年は絶対にツカマエル!」

ISAS ニュースにも「方探システム機能確認試験」の話題.ウーメラは過酷な環境のようですね.


こんな研究会も開催されていたようです.個人的にはライター喜多充成さんの「フィナーレの火に、油を注げ ―― よりよきアウトリーチのために」という講演が気になりますww

JAXA タウンミーティング@大阪で川口プロマネが講演

7 月のことになりますが,JAXA タウンミーティングが大阪で開催され,はやぶさプロジェクトマネージャの川口教授が「はやぶさ−地球への帰還をめざして.目下奮闘中」というタイトルで講演されました.

参加者:後継者不足、あるいは育てるということの話もありましたが、例えば「はやぶさ」の帰還が真夜中ではなく昼でしたら、NHKとかあるいは民放さんにスポンサーになってもらい、学校の授業のときに生中継をやってもらう。こういうことで夢を与えるということは、ものすごく大事だと思います。
(略)
川口:(略)夜は昼に変えられないのですが、インターネットを見ていただくというのはひとつどうでしょう。「はやぶさ」の着陸の運用が、午前5時か6時という時間だったのですが、世界中の方に見てもらいました。インターネットでごらんいただくと、ありがたいと思います。

川口:(1)打ち上げ当初の考え方は、今と基本的には変わらなく、要は、母船は化学エンジンが生きていれば逃げられます。もともとは逃がすつもりでした。さらに、もう一回別の場所に行ける計画も頭の中にはありました。しかし、今ではもう無理です。イオンエンジンは瞬発力がないため、カプセルを離してから残りの時間で大気への突入を避けることは不可能です。残念ながら、今回は大気の中に入ってしまいます。ただ、もともとは大気の中に入れるつもりはありませんでした。
だから、もう少し大きめの探査機をつくり、時間を1年半ぐらいかけると、例えば太陽と地球の間のラグランジュ点というところに置くとか、置いてもう一度回収するということができたはずですし、できるはずです。そういう計画も頭の中にはありましたが、今回はできません。

川口:(1)アドバンテージを保てるか、外国の状況はどうかというと、外国は虎視眈々と「はやぶさ2」が立ち上がらなければ自分たちがやろうという構えです。我々がよく外国で聞かれるのは「はやぶさ2」の状況はどうですかと、そのことしか聞かれません。ヨーロッパに行っても、アメリカに行ってもです。
NASAは7月にニューフロンティアというプログラム計画の締め切りがきますが、その中には幾つもの提案が出ているのは知っています。同じ天体に向かう提案も出ています。ヨーロッパも同様です。それから、この夏から始まるNASAの提案プログラムの中にも、名乗りを挙げようとしているグループがあります。ですから、是非知識伝承ができるように、これを立ち上げていかないとと思っています。

他のタウンミーティングの報告もあがっており,それぞれ興味深いものとなっています.

ニコニコ大百科の「探査機『はやぶさ』」の項目がさらに充実

このところのニコニコはやぶさ祭りのせいもあるのでしょうか,ニコニコ大百科の探査機『はやぶさ』」の項目を久しぶりに見たらコンテンツが充実しまくっていました.

はやぶさと川口プロマネのイラストがSUGEEEEE!
http://dic.nicovideo.jp/oekaki/49679.png
http://dic.nicovideo.jp/oekaki/125948.png

事業仕分けで衛星打上げ・HTV 予算が 1 割減,疑問の声も

前エントリで予算の話に抵抗を示しておいて突然予算の話もなんなのですが,日本の宇宙開発全体,ひいては科学技術行政全体にかかわる話ですので,取り上げたいと思います.

行政刷新会議事業仕分けがバッサバッサと科学技術予算を削減し,まさに文化大革命 (悪い意味で) と呼ばれているようですが (行政刷新相も自らそう発言していたそうですが),宇宙関係では,GX ロケット,HTV,平成 24 年度以降の衛星打上げ,の 3 つがピックアップされていました.

そして,GX ロケットに 1 時間,HTV と衛星打上げにいたってはまとめて 1 時間という恐ろしく短い時間で審議が行われ,どちらも 1 割減という結果になりました.

これでも,他の科学技術政策に比べればましなほうで,スパコンSPring-8 などの大型予算はさらに壊滅的な打撃を受けています.とはいえ,宇宙関係の 1 割減,これは相当に厳しい.もちろんこの中には,はやぶさ 2 や Bepi Colombo,小型科学衛星,ASTRO シリーズ,ALOS シリーズなども含まれています.

戦後,航空技術開発が 7 年間禁止されたことによって日本の航空機技術が壊滅したことをふと思い起こします.

科学技術政策のあまりの粛清ぶりに,文部科学省事業仕分けの対象事業に関して 12/15 まで国民からの意見を受け付けています.送り先は事業ごとにわかれており,HTV や衛星打上げに関する送り先もあります.

また,旧帝大学長ら,ノーベル賞受賞者らが緊急提言を行ったほか,11/27 には「立花隆 緊急集会 −すばるが止まる−」という緊急集会を開催するなど,危機感が強まっています.

http://mainichi.jp/select/seiji/news/20091126ddm001010019000c.html

スパコン凍結に関しては研究者からの批判が相次ぎ,判定を見直す動きも出ているようなので,宇宙関係も国民の声次第かも知れませんが…少なくとも日本の科学技術全体に暗雲が立ち込めているようです.

追記 (2009-11-27):なんと,ここへ来て,GX 再審議の話が出ています.

 財務省は「仕分け人」用資料に「ロケット本体開発に700億円もの巨額の税金が投入されてきた。その点からしても、研究は凍結(廃止)することが妥当」と記載した。

 財務省主計局の担当者は「700億円は文科省から聞いた」と説明。文科省担当者は「700億円の数字が主計局資料にあるのは当日知った」としている。

 だが、700億円のうち430億円は、米国側や宇宙航空研究開発機構JAXA)と共同開発を行ってきたIHIなどの民間企業が投資したものだった。仕分けの現場で、文部科学省の担当者が民間投資額が430億円だと説明したが、税金投入額700億円の訂正はなかった。

 一方、17日の仕分け作業に先立つ11月上旬に、GX打ち上げを担当する米ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)社から、少なくとも2、3機のGX使用の意向が政府の宇宙開発戦略本部などへ伝えられていた。だが、この説明はなく、仕分けでは「ビジネスとして成立しない」との意見が大勢を占めた。

 これらの点をIHIは政府側に抗議している。

この分だと,HTV や衛星打上げ,そしてその他の事業の審議の信憑性も,鵜呑みにして良いものか….

はやぶさ 2 の現状

さて,はやぶさの後継機,はやぶさ 2 はどうなったのでしょうか.さすがの松浦さんのブログも,推測や伝聞が多くなかなか状況がつかめませんが,

少なくとも一般公開で「衝突機」という新しい構想が出ていたことが確認されています.

インプレスの報道によると 2 機体制で,衝突機という別の機体が高速に小惑星に衝突してクレーターを作り,母船 (はやぶさ同型機) がそこから内部のサンプルを取るという,さらに一歩進んだ計画です.こういう話個人的には大好きです.はい.

松浦さんや大塚さんの記事を読む限り,相変わらず予算がないとのことです…ただ,お二人の記事では来年度の概算要求にはやぶさ 2 が計上されていないとありますが,事業仕分けの資料では,5 千万円との記載があります.

生き残っていてほっとしました.しかしたった 5 千万かという気はしますが…ちなみに ASTRO-G のゼロ円というのも謎ですが….

なお予算に関しては,その昔,松浦さんの呼びかけに触発されて,Wiki のほうではやぶさ2を実現させよう勝手にキャンペーン というページを作ったことがありました.多くの方がご賛同くださり,メル凸先や応援者などの情報を書き込んでくれました.しかしその後 2ch 等の議論を通して,そういう予算云々というメル凸を勝手にやることは応援の仕方としてあまり良くないのではという話になり,たかが 2ch の議論ではありますが,ガクブルしつつ自分の衝動的で軽率な行動を猛省した次第です.もし自分がメル凸される立場だったら,という想像力が欠けていましたし,それ以前に中の人に全く断りなく外野がいきなり人の尻馬に乗って勝手に活動してしまったことは,ほめられたことではありません (ただしこれは賛同して下さった方々の行動を非難するものでは全くありません.勝手にそんなページを作ったことへの反省です)

はやぶさを始め,色々なプロジェクトを「応援してます!」という声が届くこと自体は良い事だろうということで,まあ,これはまさに原点なんですよね.結局,予算云々以前に,はやぶさを,日本の宇宙開発を,純粋に応援し,これからに期待し,かつ手放しで礼賛するのではなくそこにある問題点や改善点,誤解や欺瞞を見抜く科学リテラシーを培い,そして宇宙とそこに到達しようとする人の営みへの愛を持つことで,はやぶさのみならず日本の宇宙開発全体の底力を支えていくことができればと思うわけです.キャンペーンサイトに関してはそもそも内容が古く,応援しようとする人が混乱するといけないので多少再考すべきと考えていますが,はやぶさとその後継機,そして宇宙開発全体を応援する気持ちは変わらないということで,衝動的にならないように注意しつつ個人的な「応援」は続けていきます.

結局 3 年前のこれらのエントリで悶々としてたときの結論は今も変わっていない.読み返すと稚拙かつ青すぎる文章に苦笑しますが (そして未だにぜんぜん成長してませんが).

なお,一般公開では参加者からはやぶさ 2 への応援メッセージを書いてもらったようで,その写真が公開されています.心強い話です.

NEC のワークショップで小学生達がはやぶさなどの CM 作り

小学生 20 人が,NEC の携帯,パソコン,そして小惑星探査機を題材にした CM 作りにチャレンジしたそうです.

はやぶさは,携帯,パソコンと並んで NEC の主力商品なのですねw.どんな作品が出来上がったのか,ぜひ見てみたいものです.

小惑星探査機「はやぶさ」のCMを担当したグループは、ロケットから「はやぶさ」が切り離されるところや、小惑星に降下する際に惑星表面に機体の影が映るところなどを表現。「はやぶさ」製作を手がけた「日本電気航空宇宙システム」(東京都府中市)の國見喬嗣さんは「『はやぶさ』の影が映った写真がある。正確に描いていて感動した」と話した。