「星座を見つけよう」

夏休みも始まったことだし,たまには子供さん向けの本も紹介してみる.といってもこの本は大人が読んでも十分に面白いです.

星座を見つけよう (福音館の科学シリーズ)

星座を見つけよう (福音館の科学シリーズ)

以下,ネタバレ含みます.


あの「ひとまねこざる」シリーズを手がけた H・A・レイによる星座の本だけあって,随所に添えられたイラストが実に素晴らしい本書ですが,この本の画期的なところは以下の 3 点だと思っています.

ひとつは,線で結んだ星座の図と,線で結んでいない星だけの図を,常に対比させていること.ぱっと見ではなんだかわからないばらばらな星の並びも,線で結んだオリオン座をじっくり眺めた後に見てみると,脳内で線が補完されてちゃんとオリオン座と認識できます.本書で鍛えられたこの能力は,実際に夜空を見上げたときに大変な威力を発揮します.夜空には線なんて引いてないですからねえ.星の配置から星座を当てるクイズなどが挿入されていたり,春夏秋冬の北天,南天星図も線あり版と線なし版が必ず見開きで並べてあるあたり,作者は意識してこの「星座を見つける能力を鍛える」ことを徹底したのではないかと思います.

もうひとつは,よくあるギリシャ神話風のイラスト重ね合わせがなく,まさに星と星を結ぶ線だけで星座を描いていることです.うーん,これはなかなか文章だけで説明するのが難しいのですが,さすがレイというべきか,独特の解釈によって点と線だけで実に生き生きと「こしかけてパイプをふかしている大頭の男」(うしかい座)や「つぼから水をこぼしながら、はしっている人」(みずがめ座)や「長いスカートをはき、頭に羽かざりをつけ、前かがみになって矢をつがえているすがた」(いて座)を描いているのです.慣れると,もう星の配置がそうとしか見えなくなってきます.これも,夜空を見るときに実に役に立つ.

最後のポイントは,黄道 12 星座を非常に重要視している点です.なぜだと思いますか? 星占いのためじゃないですよ.将来,太陽系内を宇宙旅行するときに,黄道の星座が重要な目印になるから,というのがその理由です.本書の後半は太陽系の説明にあてられていて,有人火星飛行のページがあるのですが,これが軌道工学の初歩の初歩の初歩みたいな内容で実に素晴らしい.あらかじめ軌道を計算しても飛行中に絶えず軌道決定は行わなければならない,だから恒星を標識代わりにする,特に「火星はいつも黄道の星座のどれかのなかか、その近くにみられる」という論理なのです.まさに,スタートラッカによる光学航法ですね(そういえば,はやぶさが撮影したイトカワがしし座の中を通り抜けていく写真なんかもありました).

管理人がこの本を買ってもらったのは幼稚園の頃でしたが*1,子供さんが初めて出会う星座の本としてかなりオススメです.

*1:今読み返すと,星だけの星図を鉛筆でことごとく線で結んでいたりして,当時はどうもこの本の目的を誤解していたようですが(笑).