「まんが地球大紀行(1)」

1987 年に NHK で放映された科学番組「地球大紀行」を子供向けに漫画化したものです.絶版本ですが,学習漫画なので図書館などにはあるかも知れません.

まんが地球大紀行 (1) 水の惑星・奇跡の旅立ち

まんが地球大紀行 (1) 水の惑星・奇跡の旅立ち

以下,ネタバレ含みます.


「地球大紀行」はかつてまだ NHK が 1 年スパンで大型科学番組シリーズを放映していた頃の番組で,第 29 回科学技術映画祭・科学技術庁長官賞も受賞したクオリティの高い作品です(続編として 2004 年に「地球大進化」が放映されています).本書は放映と並行して刊行されたものです.番組は地球の誕生と進化を扱っており,この巻では地球の誕生について,当時の最新の学説に基づいたシナリオが紹介されています.20 年前の作品とはいえ,今読み返してもそれほど古い感じがしないのは,今や惑星科学の第一人者である松井孝典先生(本書での肩書きは助手!)が企画段階から関わっておられたこともあるかも知れません.

面白いのは,一般的な学習漫画(小学生の主人公と博士・先生役の対話によるようなもの)とはまったく違い,この番組を制作した NHK のスタッフ達が漫画内のストーリーテラーとなり,世界各地の取材やスタジオでのセット製作などを通じて地球の進化を読者に伝えるという非常に斬新な構成になっていることです.NHK の実際のチーフやディレクタ,サブディレクタ,キャスター等が実名で登場し(少なくとも若き桜井洋子アナは本人そっくりに描かれています),また取材先のさまざまな研究者や実験設備もそのまま登場しているので,もちろん脚色や演出は多分にあるでしょうが非常に説得力の高い解説漫画に仕上がっています.大人が読んでも十二分に面白い学習漫画といえるでしょう.他に,まだ CG が一般的でない時代になんとか地球創生の特殊映像を撮影しようとする特殊技術スタッフの創意工夫も,楽しみどころの一つかもしれません.

作品中,人工的にクレーターを作り出す NASA の装置や,米国・フィールド博物館のオルセン博士から,水を含有しているという貴重な隕石を特別に提供してもらい,東大に依頼して実際に水を取り出してもらうシーンなど,興味深いエピソードがたくさんあります.20 年後の現在,彼らは今でも太陽系誕生の謎を追っているのでしょうか?