まっすぐ天へ

浜松町の「JASDA」で働く技術者,飛騨翔一が軌道エレベータにかける情熱を描いたアツイ漫画です.いわゆる「中の人」が主人公ってけっこう珍しいですよね.
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以下,ネタバレ含みます.


軌道エレベータが題材ではありますが,SF というよりは,宇宙開発の中の人の苦悩と奮闘を描いた漫画といった感じです.宇宙を夢見て JASDA に入社し「日本で一番宇宙に近いトコにいる」のに,相次ぐ打上げ失敗やら社内のgdgdな雰囲気やらで,大好きだったロケットにさえかつての情熱を感じられずにくすぶりつつ,それでも宇宙を諦めきれない主人公.追い討ちをかけるようにスペースシャトルの大事故が発生し,NASA を初めとする各国の宇宙機関が「有人宇宙飛行計画の全てを無期限で凍結」.JASDA も多くの部署が閉鎖され,メーカーもロケット開発から手を引くなかで,それでも主人公は職場の有志で集まってデブリ対策ブレストを行い,やる気低そうに見える同僚達も実はけっこう真剣にいろいろ考えてたりする.そこで出た「軌道エレベータデブリ捕獲」というアイディアに,建設会社で働く弟がこっそり教えてくれた新素材情報をプラスして,国際会議で会った米国宇宙開発の大御所に直訴したら,翌日の会議で紹介されて大ニュースになってしまった.JASDA は勝手な行動をした主人公を謹慎処分.弟の建設会社は着工に名乗りを上げるが,アメリカの外圧で潰されてしまう.JASDA 理事への直訴もその場で握りつぶされてしまい,主人公は JASDA に辞表を提出して,高名な SF 作家(アーサー・C・クラークがモデル)が運営する研究所に一縷の望みを託し,建設に向けてスリランカに旅立つ….

なんかこう,妙にリアルなところがありますね.日本の宇宙開発の最悪の可能性のひとつが本作の JASDA のような気がします.上層部が国の政策ひいてはアメリカの言いなりだとか,もはや自国内宇宙開発が無理で海外に行くしかないとか….現実の JAXA は JASDA に比べればずっと健全だと思いますが,どこか一つ間違えればこういう未来もないとは言い切れないので,ともかくこんな組織にはならないで欲しいものです.同時に,一見gdgdに見える同僚達も本当は真剣にもがいているあたり,多分現実の中の人も,組織と理想の狭間でもがきながらそれでも夢を追い求めているんじゃないかなあと勝手に思っています.

作者はかなりよく取材されていますね.技術的事項やいろいろな構想などもとてもリアルです.本書はいよいよこれから建設というところで終わっているので非常に続きが気になるのですが,なぜか「第一部・完」以降まったく続編が出る気配がないんですよね….「第一部・完」で「無期限凍結」されてしまうのはよくある話で,打ち切りになったのか作者がもう書く気がないのかはわかりませんが,できればぜひ続きを出していただきたいものです.

なお,軌道エレベータについては実際に活動を始めている人達が日本にもいます.かなり楽しみです.


余談.JASDA といえば,2003 年の TBS のドラマ「愛するために愛されたい」も JASDA という宇宙機関が舞台でした.管理人はリアルタイムでは見てなかったのですが,ウェブの情報を漁る限りは素晴らしい電波系ドラマだったらしいです.見てみたいww

ただ、そのファンタジーともシュールともつかない展開と台詞、そしてそれを大真面目に演じる役者たちが醸し出すカオス的ストーリーが、2ちゃんねるを中心とするネットの一部にてカルト的人気を生むこととなり、今でも再放送やDVD化を望む声も少なくない。

愛するために愛されたい - Wikipedia